沙村広明はなぜ尸良を作った?「話せば分かる」人物ばかりにしなかった敵役

2020年のインタビューで話す沙村広明 沙村広明
沙村広明/2020年『波よ聞いてくれ』インタビュー、撮影:笹井タカマサ。

沙村広明さんは、『無限の住人』の登場人物が、話せば分かる人物ばかりになることを嫌い、尸良という残酷な剣士を作りました。
本人は、尸良が死ねば誰かがすっきりする、そんな人物が必要だと考えたことも話しています。

凜の復讐と万次の戦いを描く漫画で、作者はなぜ、ここまで残酷な人物を登場させたのでしょうか。
尸良の誕生と、予定より長く登場し続けた経緯を、沙村さんの説明からたどります。

2020年のインタビューで話す沙村広明
沙村広明/2020年『波よ聞いてくれ』インタビュー、撮影:笹井タカマサ。 出典

話せば分かる人物ばかりに、尸良を加えた

2017年の本人インタビューでは、連載中に「話せば分かるキャラ」ばかりになることを嫌って、残酷非道な剣士・尸良が生まれたと説明されています。
話せば折り合いをつけられる、という人物ばかりにはしたくなかったのです。

原画展のトークでも、尸良を作る際に何を参考にしたのか、という質問が出ています。
沙村さんは、何かを参考にするより、自分の周りに足りない要素を描いたようなものだと答えました。
特定のモデル名よりも、尸良に担わせたかった役割を説明した答えです。

沙村広明の無限の住人 宿敵乱舞編の表紙
『無限の住人 宿敵乱舞編』/沙村広明、講談社、2017年刊。尸良の初登場を含む巻。 出典

死んだときに、誰かがすっきりする人物

原画展で沙村さんは、尸良が死ねば、どこかの誰かがすっきりするような人物を作ろうと思った、と話しています。
尸良の死を喜ぶ人がいることを、人物作りの一つの狙いにしていました。

人物の性格だけでなく、その死が誰かにどう受け止められるかまで、沙村さんは考えていました。

無限の住人の原稿や額入りの絵が壁面に並ぶ原画展の会場
『無限の住人』原画展の会場/2013年公開の記録、写真掲載:ヴァニラ画廊。 出典

早く退場する予定が、最終章まで続いた

尸良は、もっと早い段階で死ぬ予定だったと沙村さんは話しています。
その予定は変わり、尸良の登場は最終章まで続きました。

同じトークで沙村さんは、百琳も、当初は死ぬ予定だったと説明しています。
担当編集者から、ひどい目に遭った彼女を生きて終わらせてあげようと言われ、沙村さんは、死ぬ必要はないと考え直しました。
尸良と百琳の話からは、連載を続けながら、生き残る人物や退場する時期も作者が選び直していたことが分かります。

尸良の結末については、尸良を好きな人にも、その人物らしいと感じてもらえる形を考えた、と沙村さんは話しました。
沙村さんが思い出深い対決として挙げたのも、万次と尸良の最後の戦いです。

まとめ

沙村さんは、尸良の死によって誰かがすっきりすることを考えながら、その結末を尸良の好きな人にも、その人物らしいと思ってもらおうとしていました。
死を喜ばれる敵としての役割と、その人物らしい最後の両方を考えていたことが、尸良を作った作者の言葉から伝わります。
敵役をどう生み出すかという話は、どんな結末を与えるかという選択にも続いているのです。

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