沙村広明さんは、『無限の住人』を終えて次の連載を考えたとき、強い女性を主人公に、現代で働く女性と恋愛の話を描こうとしました。
その構想から生まれたのが、スープカレー店で働く鼓田ミナレを主人公とする『波よ聞いてくれ』です。
時代劇の次にラジオを扱う漫画を選んだ、その変化には、どんな狙いがあったのでしょうか。
本人の2020年のインタビューから、描きたかった女性像と、連載する中で変わった関心をたどります。

残虐なイメージを離れ、現代の強い女性を描きたかった
作品の誕生を語ったインタビューで沙村さんは、『無限の住人』が時代物だったので、次の舞台を現代にしたと説明しています。
そこで何となく描きたいと思っていたのが、強い女性の話でした。
別の本人インタビューでは、自分の漫画には残虐な場面の印象が強いため、それを払拭したかったとも話しています。
人が死なず、落ち着いて読める漫画を描きたいという思いでした。

担当編集者と、失恋する女性の話を相談した
『波よ聞いてくれ』の企画を立てた担当編集者は、『無限の住人』の最後の担当でもありました。
沙村さんは、女性の担当と一緒なら恋愛の話も描けそうだと思った、と回想しています。
連載の立ち上げを振り返る取材では、担当編集者が、失恋した女性が暴言を吐く場面を見たいと提案したことを話しています。
沙村さんは、仕事のある都会と、失恋して逃げ込める大自然が近い土地を考え、札幌を舞台にしたと説明しています。
担当とアイデアを出し合ううちに、酒場のやり取りから始まる第1話ができ、ラジオを扱う漫画になっていきます。
最初からラジオ業界への憧れを描く企画だったわけではありません。
働く女性と恋愛を描こうとしたことが先にありました。
脇役だった、うるさい女性を主人公にする
ミナレの人物像について、沙村さんは、以前の作品なら中心人物の脇にいたような、うるさい女性を、真ん中に置いた感覚だと話しています。
彼女がひたすら力強く、目立つように描こうとしていました。
ミナレでは、よく喋る女性を脇に置くのでなく、その女性の声で作品を進めようとしたのです。

沙村さんは、『おひっこし』などでも、会話劇やコメディを描いてきました。
本人も、耽美な作品と会話劇の両方を描きたいと答えています。
沙村さんは、以前から描いてきた女性の人物像や会話を、この連載の中心に置きました。
恋愛に限らず、仕事や人との信頼を描く
ミナレがスープカレー店で働く設定にも、作者の狙いがありました。
沙村さんは、別の仕事をしながらラジオでも働き始める女性を描きたかったと話しています。
その日暮らしだった人が、働くうちに仕事を楽しく感じ、その仕事が生活の主軸になっていく流れを考えていました。
恋愛を中心にする構想も、連載の中で変わっています。
2020年の取材で沙村さんは、当初考えた恋愛劇のビジョンは古く感じられるようになったと話しました。
ミナレが同居人の瑞穂と過ごす場面にも触れ、信頼できる相手は男女の組み合わせでなくてもよく、人同士のつながりからドラマが起きればよい、と説明しています。
沙村さんの関心は、恋愛の成否だけに限らず、女性同士の信頼も含む、人とのつながりへ広がっていました。

まとめ
沙村さんは、以前の作品では脇にいたような女性を主人公にして、その生活を描く現代劇を選びました。
働く女性と恋愛から始まった構想は、女性同士の信頼も含む、人とのつながりへ広がっていきました。
恋愛の行方だけでなく、ミナレの暮らしの中にもドラマを見つけていく。
2020年に沙村さんが語った創作の方向からは、そのように『波よ聞いてくれ』の描くものが広がったことも読み取れます。

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