『銀河英雄伝説』の漫画化について、藤崎竜さんは、自分の読み方で構成や人物の見せ方を考えたと話しています。
原作者の田中芳樹さんも、その違いを楽しみ、藤崎さんにしか描けない漫画を期待していました。
二人がそう語り合ったのは、漫画第1巻の発売に合わせた2016年の対談です。
漫画はその後、2026年に最終35巻が刊行され、完結しています。
連載初期のやり取りには、作品を任せる原作者と、長年のファンでもある漫画家の関係が表れています。

高校時代からの読者が、漫画を描く側になった
藤崎さんが小説『銀河英雄伝説』に出会ったのは高校時代でした。
海外SFを読んでいた藤崎さんは、日本のSFも探すうちにこの作品へ行き着き、次の巻を待つほど夢中になったと話しています。
とくにヤンが好きで、その影響は『封神演義』の太公望の策にも及んでいたと認めています。
漫画化を引き受ける際には、好きな作品だからこそ自分に描けるのかと感じた一方、ほかの人が描くくらいならという思いもあったそうです。
決めるまでの時間を尋ねられると、藤崎さんは約3分だったと笑っています。
長年読んできた物語を、自分の漫画にすることになったのです。
キルヒアイスの目から、天才ラインハルトを描く
藤崎さんは当初、ラインハルトとヤンが戦うアスターテ会戦から始めるネームを作りました。
しかし、その始め方を見直し、ラインハルトとキルヒアイスの子供時代から描く構成へ変えています。
漫画化のテーマが大河ドラマだと決まり、二人の出会いから始めるほうが分かりやすいと考えたためでした。

藤崎さんは、連載の始めをキルヒアイスの視点で描くことも最初から決めていました。
天才であるラインハルト本人の視点では、読者の共感を得にくいと考えたのです。
田中さんはその構成を見て、ラインハルトのすごさと危なっかしさ、それをそばで見ているキルヒアイスの気持ちが自然に伝わってくると評価しました。
原作者は、小説と違う構成を受け入れるだけでなく、その構成で何が伝わるかも楽しんでいました。

小説の短い言葉を、具体的な絵にする仕事
原作の言葉を漫画で描くときには、構成とは別の苦労もあります。
たとえば、小説ではラインハルトと姉のアンネローゼの髪が、黄金色と書かれています。
藤崎さんは当時、髪のツヤだけでも、ラインハルトは1カットに1時間、アンネローゼは2時間かかると話しています。
その説明を聞いた田中さんは、この先も迷惑をかけるかもしれないと、冗談まじりに詫びました。

軍服のデザインについても、藤崎さんは小説の文章と昔のヨーロッパの服を参考にしながら、未来らしく見えるよう考えたと説明しています。
小説なら短い説明で済む服を、漫画家は実際に描ける姿へ決めなければならない。
藤崎さんが原作から変えた部分もあると話すと、田中さんは構わないと応じました。
宇宙戦艦では、藤崎さんは加藤直之さんのデザインを踏まえたと話しています。
藤崎さんにとって、夢中で読んだ小説の表紙の絵でもあり、その印象が強く残っていたからです。
構成や人物の描き方を変える仕事でも、好きだった絵を受け継ぐ部分はありました。

原作者は、次にどう描かれるかを楽しみにしていた
対談の終盤では、イゼルローン要塞をどう描くかという話になります。
藤崎さんは、巨大な内部や戦艦が停まる仕組みなど、絵にする難しさを挙げながら、考えること自体は楽しいとも話しました。
田中さんは、原作の宇宙艦隊戦を考えたときの自分も、一番かっこよく書こうと決めたと振り返っています。
田中さんは、藤崎さんを信頼して任せた以上、口は出さないと話しました。
そして、藤崎さんにしか描けない『銀河英雄伝説』を描いてほしいと伝え、漫画を読み続けたいという言葉で対談を結んでいます。

まとめ
田中さんは、自分が書いた物語が漫画でどう描かれるかを楽しみにしていました。
原作の結末を知っていても、藤崎さんが選ぶ視点や、言葉を絵にする工夫は、新しく読む楽しみになります。
この対談には、長年のファンだった漫画家と、その漫画の読者になった原作者の関係が見えます。


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