あだち充さんの兄・あだち勉さんも、漫画家でした。
赤塚不二夫さんのアシスタントとして活動し、後には弟・充さんのマネジャーも務めています。
二人が若い頃に同じ部屋で漫画を描いていた日々は、勉さんの弟子だったありま猛さんの回想にも残っています。
そのありまさんが描き、充さんが協力した漫画が、『あだち勉物語 ~あだち充を漫画家にした男~』です。
まだ代表作を生み出す前の充さんと、そのそばにいた兄の姿に触れられる作品です。

勉を訪ねたありま猛を迎えたのは、弟の充だった
ありまさんは、2020年の本人インタビューで、勉さんに弟子入りした頃を振り返っています。
当時、工場で働いていたありまさんは、好みの絵柄を描く勉さんに原稿を送っていました。
勉さんから遊びに来るよう誘われ、16歳頃に仕事場を訪ねます。
ところが、戸を開けた青年に名乗ると、その人は兄を呼びました。
ありまさんが勉さんだと思った相手は、弟の充さんだったのです。
充さんも、まだ高校を出て間もない、デビュー前の青年でした。
ありまさんは勉さんの仕事を手伝うことになり、勉さん、充さん、ありまさんの三人が、六畳の部屋で漫画を描くようになります。
後に知られる漫画家たちが、同じ部屋で原稿へ向かっていた頃の話です。
デビュー前の充の絵に、ありま猛は驚いた
ありまさんは、勉さんのプロの原稿に感心し、そのそばで描いていた充さんの絵には、さらに驚いたと語っています。
2021年のインタビューでも、こんなに絵のうまい人が、まだデビューしていないのかと思った、と振り返りました。

ありまさんによれば、『あだち勉物語』第1話の機関車のカットなどは、充さん自身が描いたものです。
ありまさんは、充さんが絵を描く仕事のやり取りを、目の前で見ていたと振り返っています。
弟の充さんについての回想が、同じ部屋で過ごした若者の驚きとして語られています。
『タッチ』や『H2』の作者として知る充さんの、その前の姿を、同時代を過ごした人の回想から知ることができます。
兄弟は落語好きで、服の好みは違っていた
ありまさんによると、勉さんも充さんも落語が好きで、仕事をしながらテープやLPを聴いていました。
漫画でも、落語を流しながら三人が原稿へ向かう場面が描かれます。

一方、服装の好みは違いました。
勉さんはブランドのシャツを好み、充さんはパーカーやワイシャツなど、地味な服を着ていたと、ありまさんは話しています。

ありまさんの回想には、兄弟で共通する楽しみと、それぞれの違いが並んでいます。
落語の流れる仕事場や兄弟の服装は、ありまさんが覚えていた共同生活の具体的な姿です。
『あだち勉物語』は、仲間たちの思い出話から生まれた
ありまさんは2021年の本人インタビューで、勉さんが亡くなった後も、昔の仲間で集まると、勉さんの話で盛り上がっていたと語っています。
誰かが、その話を漫画にしてはどうかと言ったことから、ありまさんは最初のネームを作りました。
その後のインタビューで勉さんの話が出たことも、連載につながったそうです。
描かれた兄の姿について、充さんは「兄貴、大人しくない?」と反応したといいます。
小学館の紹介では、本作は、充さん19歳、勉さん23歳、ありまさん16歳の頃から始まる青春群像劇とされています。
弟の充さんだけでなく、勉さんの周りにいた、漫画を仕事にしようとする人々も描く作品です。
まとめ
ありまさんは、『あだち勉物語』を、漫画に関する話の延長として描きたいと話しています。
勉さんは、弟や弟子がまだ若かった頃から、漫画を通じて人と関わってきた人でした。
同じ部屋で原稿を描いたありまさんが、その日々を漫画にしたことで、あだち充さんの代表作が生まれる以前の仕事場にも、読者が触れられるようになっています。


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