『ドラゴンヘッド』で望月峯太郎さんを知った人が、最初の連載作『バタアシ金魚』を開くと、恋愛と水泳の青春漫画に出会います。
その後の『万祝』には海賊と財宝が登場し、『ちいさこべえ』では若い棟梁が工務店の再建に向き合います。
望月峯太郎と望月ミネタロウは、同じ漫画家の旧名と新名です。
作品歴をたどると、恐怖の物語だけでは紹介しきれない仕事の幅が見えてきます。
最初の連載は、恋する少年の『バタアシ金魚』
望月さんは1985年、『ヤングマガジン』で『バタアシ金魚』の連載を始めました。
主人公の花井薫は、水泳が好きだからではなく、ソノコへの恋心から水泳部へ入ります。
『バタアシ金魚』は全6巻。
続く全3巻の『お茶の間』では、薫が社会人になり、結婚や仕事に向き合います。
学校から社会へと生活の舞台が移った、同じ主人公の物語を読める組み合わせです。
身近な部屋から、壊れた世界へ――『座敷女』と『ドラゴンヘッド』
1993年に単行本が出た『座敷女』は、全1巻のホラーです。
呼び鈴、電話、合い鍵といった身近なものを通じて、女が主人公の生活へ近づいてきます。
長編を読む前に、望月さんの恐怖の物語を一冊で読むこともできます。
1994年に連載が始まった『ドラゴンヘッド』は、全10巻。
修学旅行帰りの新幹線の事故から、生き残った高校生たちが見知らぬ状況へ放り出されます。
『座敷女』の生活へ迫る恐怖に対し、こちらでは生活の前提そのものが崩れた場所から物語が始まります。
望月さんは本人インタビューで、『ドラゴンヘッド』で描きたかったのは、人物の内面にある恐怖だったと説明しています。
大きな異変を描きながら、人物が感じる恐怖を物語の中心に置いていたのです。
『万祝』では、財宝を目指して海へ出る
2002年に連載を始めた『万祝』は、全11巻の海洋冒険漫画です。
主人公は女子高生の大和鮒子、通称フナコ。
家へ来た下宿人カトーをきっかけに、海賊の財宝を求める冒険へ進んでいきます。

望月さんは『ドラゴンヘッド』の旅を、終着点の見えないさまよいと説明しています。
一方、『万祝』には、財宝を見つけるという明確な目標があると話しています。
主人公たちが知らない世界へ踏み出す物語を、異なる目的と状況で描いていました。
『東京怪童』から、表現の方向も変わっていく
全3巻の『東京怪童』は、病院にいる若者たちを描いた作品です。
この連載中、望月さんは名前を「望月ミネタロウ」へ変えました。

望月さんは、以前は線を増やすことで絵に力が出ると考えていたものの、空間や白い部分からも力が生まれると気づいた、と話しています。
『東京怪童』で試した方向が、『ちいさこべえ』でさらに明確になりました。
物語の題材に加え、画面をどう作るかも変えていった時期です。
改名の理由は、二つの名前を扱った記事で詳しく紹介しています。
小説と映画を漫画へ――『ちいさこべえ』『犬ヶ島』
全4巻の『ちいさこべえ』は、山本周五郎の小説『ちいさこべ』を現代の物語に描き直した作品です。
両親と工務店を火事で失った茂次が、父から受け継いだ仕事の再建に向き合います。
りつや、行き場をなくした福祉施設の子供たちとの暮らしも、再建に向かう茂次の物語に重なります。

望月さんは完結記念の対談で、原作を読んだとき、不幸な始まりの中に幸福感や人間への肯定を感じたと話しています。
自分の力だけでは越えられない壁を越えたいという思いから、原作付きの漫画に挑戦したのです。

2018年には、ウェス・アンダーソン監督の映画を漫画化した『犬ヶ島』も刊行しました。
原作を漫画に描く仕事は、文学から映画にも広がりました。
『犬ヶ島』は一冊にまとまっているので、原作のある仕事を短く読んでみたいときにも選べます。
漫画を描く日常へ――『没有漫画 没有人生』
『没有漫画 没有人生』は、架空の漫画家・峯月モチタロウの日常から、創作や心について考えるエッセイ漫画です。
全2巻で、望月さん自身の仕事や生活を思わせる題材が登場します。

まとめ
望月さんの次の一冊は、好きな読み味から選ぶこともできます。
一冊のホラーなら『座敷女』、財宝を求める冒険なら『万祝』、人々が暮らしを立て直す物語なら『ちいさこべえ』。
好きなジャンルから選んでも、同じ作者の違う一面に出会える作品歴です。





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