『波よ聞いてくれ』はなぜラジオの漫画になった?沙村広明が目指した「読むラジオ」

アニメ 波よ聞いてくれでヘッドホンを着けマイクに向かうミナレ 沙村広明
アニメ 波よ聞いてくれ のマイクに向かうミナレ/©沙村広明・講談社/藻岩山ラジオ編成局。

『波よ聞いてくれ』は、沙村広明さんと担当編集者が、働く女性と恋愛の話を相談する中で生まれました。
二人ともラジオを聴いており、酒場のやり取りから始まる第1話ができたことから、ラジオを題材にすることになったのです。

沙村さんは、ラジオ業界そのものを詳しく描くことより、主人公が喋り続けるだけでも面白い、読むラジオのような漫画を目指しました。
なぜラジオがその狙いに合っていたのか、本人の2020年の説明からたどります。

ヘッドホンを着けマイクを持つ鼓田ミナレを描いた波よ聞いてくれ第1巻の表紙
原作『波よ聞いてくれ』第1巻/沙村広明、講談社、2015年刊。 出典

担当編集者と共有していた、ラジオへの関心

作品の誕生を振り返ったインタビューで、沙村さんは、担当編集者と働く女性や恋愛のアイデアを出し合ううちに、酒場の場面ができたと話しています。
担当者はラジオが好きで、沙村さんもラジオを聴いていました。
二人に共通の関心があり、ラジオの話にできそうだと考えたのです。

別の本人取材では、第1話のネームを描く段階で、J-WAVEへ取材に行ったことも説明しています。
ラジオが登場することになってから、その仕事の現場を見に行ったという順序でした。

アニメ 波よ聞いてくれで酒場に座りグラスを手に喋るミナレと隣の男性
アニメ『波よ聞いてくれ』の酒場で話すミナレ/©沙村広明・講談社/藻岩山ラジオ編成局。 出典

ラジオを目指していない人が、番組を持つ

沙村さんは、取材したパーソナリティから、番組のゲストとして話した帰りに、ディレクターから番組を持たないかと誘われた経緯を聞いています。
ゲスト出演をきっかけに番組を持つ、そのような入り方にも沙村さんは自由さを感じていました。

ミナレも、最初からラジオに強い思い入れのある人物にはしませんでした。
沙村さんは、ラジオをほとんど知らない人が、関わるうちに敬意を持っていく流れを描きたかったと話しています。
沙村さんは、パーソナリティになりたがる主人公を置くと、ラジオ業界そのものを描く漫画になると考えていました。

ミナレが別の仕事を続けながらラジオにも関わる設定には、業界だけに話を絞りたくない作者の考えがありました。

2020年の波よ聞いてくれのインタビューで話す沙村広明
沙村広明/2020年『波よ聞いてくれ』インタビュー、撮影:笹井タカマサ。 出典

主人公が喋る面白さで、一回の漫画を読ませる

沙村さんは、ラジオでパーソナリティが延々と喋って番組が成り立つように、ヒロインが喋り続けるだけでも漫画を成り立たせたいと説明しています。
大きな話の筋がすぐには見えなくても、ミナレの喋りを楽しめるようにしたかったのです。

だから沙村さんは、ミナレを力強く、目立つ女性にしようとしました。
以前の作品なら中心人物の脇にいたような、うるさい女性を真ん中に置いた感覚だとも話しています。

アニメ 波よ聞いてくれでヘッドホンを着けマイクに向かうミナレ
アニメ『波よ聞いてくれ』のマイクに向かうミナレ/©沙村広明・講談社/藻岩山ラジオ編成局。 出典

聴いてきた番組の空気も、作者が持ち込んだ

2020年の取材で沙村さんは、当時はほぼ芸人のラジオを聴いていると話しました。
悩み相談や曲のリクエストに答える形式は、ほとんど聴いたことがないそうです。

沙村さんは、漫画の中のラジオに、子供の頃、父親の車で流れていた番組の記憶を使ったと説明しています。
FM局へ取材したのに、漫画の中はAMの雰囲気だという、自分で笑ってしまう話も添えていました。
取材先のラジオ局の形だけでなく、作者が聴いてきた番組の記憶も、『波よ聞いてくれ』のラジオに入っています。

まとめ

沙村さんがラジオに見つけたのは、思いがけないきっかけで仕事を始める人と、その人の喋りを楽しめる時間でした。
ミナレが業界に入る経緯にも、主人公に喋り続けてもらおうとする作りにも、その関心が表れています。
ラジオの仕事を題材にしながら、ミナレの喋りを読む時間も、番組を聴くように楽しんでほしい。
沙村さんの読むラジオという狙いは、題材だけでなく、漫画をどう楽しんでほしいかにもつながっているのです。

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