沙村広明は剣戟をどう描く?岸本斉史が学んだ『無限の住人』のコマ

無限の住人 第8巻の見開きで二人の姿勢と刀の位置が変わる十二のコマ 沙村広明
原作 無限の住人 第8巻228〜229頁/沙村広明、講談社。スティービー・スアンの論考掲載図1。

沙村広明さんは、漫画の絵でまず大切なのは、場面を説明することだと話しています。
人物の位置を広く見せ、手元などの細かな動きは寄って見せる。
『NARUTO』の岸本斉史さんが『無限の住人』から学んだのは、このコマの使い分けでした。

『無限の住人』は、鉛筆の線や、一枚の絵として迫る剣戟も印象的な漫画です。
コマを順に読んでいくと、人物が何をしているのかを伝える工夫にも目が向きます。

岸本斉史は『無限の住人』を壁一面に貼っていた

2015年の『NARUTO』完結記念対談で、岸本さんは「アフタヌーン」を二冊ずつ買っていたと明かします。
『無限の住人』のページを壁へ貼り、裏と表の両方を見られるようにするためでした。

岸本さんが学んでいたのは、コマの構図に加えて、何ページで何を見せるかという構成でした。
一冊を手元でめくるだけでなく、ページを大きく並べて、漫画の流れと配分を見ていたのです。
対談の時点でも、ネームを描く際には大きく並べて見られるようにしていると話しています。

2020年のインタビューで話す沙村広明
沙村広明/2020年『波よ聞いてくれ』インタビュー、撮影:笹井タカマサ。 出典

岸本さんは、引いた絵で人物の位置を示した後に、細部のアップを小さなコマで見せる緩急を挙げています。
岸本さんは、大きなコマと小さなコマの組み合わせに、対談の時点でも影響を受けていると語りました。

沙村広明が先に考えるのは、場面を説明できるか

岸本さんの話に対して、沙村さんは、場面の説明をまず考え、その中でかっこいい絵を探すという順序を示します。
読者に人物の位置を示すことも、アクションの絵を描く仕事の一部でした。

人物がどこに立ち、互いにどう向き合っているかが分かれば、その後の手元のアップも、誰のどんな動きなのかを追えます。
岸本さんが評価したのは、全体の位置関係と、細かな動きの両方を伝える見せ方でした。

無限の住人 アフタヌーンKC版第6巻の表紙
『無限の住人』アフタヌーンKC版第6巻/沙村広明、講談社、1997年刊。 出典

対談で具体例として挙げられているのは、原作第6巻のアクションです。
岸本さんが憧れた剣戟を、沙村さん自身は、まず場面を伝える絵として考えていました。

連続したコマでは、姿勢の変化が剣戟になる

原作第8巻には、見開きに十二のコマを並べ、剣戟の一連の動きを描く場面があります。
二人の姿勢と、刀や腕の位置が、コマごとに変わっていきます。

無限の住人 第8巻の見開きで二人の姿勢と刀の位置が変わる十二のコマ
原作『無限の住人』第8巻228〜229頁/沙村広明、講談社。スティービー・スアンの論考掲載図1。 出典

一つのコマに目を留めれば、踏み込む姿勢や、身を低くした姿が見えます。
次のコマへ進むと、その姿勢が変わり、二人の攻防が続いていく。
連続したコマを見比べることで、止まった絵から戦いの流れを追える場面です。

大きな一枚の絵が一瞬を強く見せるのに対して、こうした連続したコマでは、姿勢の変化も見せられます。
『無限の住人』の剣戟は、印象に残る一枚と、前後の動きがつながる場面の両方から楽しめます。

手前と奥を分けるトーンも、動きを伝える工夫

同じ対談では、岸本さんが、沙村さんは手前の人物にトーンを貼って奥行きを出している、と指摘します。
沙村さんは、岸本さんの戦闘場面は線が多く、目で追う情報も多いことを挙げ、トーンを使えればもっと分かりやすくなると話しました。

岸本さん自身も『NARUTO』の序盤では同じ方法を使っていたものの、次第に時間がなくなり、続けにくくなったと話しています。
沙村さんも、週刊連載の時間の厳しさを踏まえて応じていました。

2017年の無限の住人イベント会場で壁に展示された複数の原画
2017年のイベント会場に展示された『無限の住人』原画/写真掲載:コミックナタリー。 出典

コマを引いて見せること、細部へ寄ること、手前と奥を描き分けること。
岸本さんと沙村さんは、憧れた絵の話から、その絵を締め切りのある仕事でどう描くかまで語っています。

まとめ

『無限の住人』では、一枚の絵を味わう楽しさと、コマを追って戦いを読む楽しさが重なっています。
岸本さんが壁へ貼って学んだのも、一枚のかっこよさに加え、その絵をどこへ置き、次に何を見せるかという描き方でした。
剣戟を読み返すとき、大きく描かれた一瞬と、その前後のコマを見比べると、絵がつながって動きを伝える工夫も見えてきます。

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