冨樫義博の短編を種明かしで読む|『狼なんて怖くない!!』と『レベルE』

さやかに気持ちを伝えようとして狼の姿になった拓狼 冨樫義博
『狼なんて怖くない!!』で、さやかに気持ちを伝えようとする拓狼。冨樫義博/集英社。

冨樫義博さんの短い作品には、最後に人物の正体や関係が分かり、それまでの出来事を見直せる話があります。
初期の読み切り『狼なんて怖くない!!』では、狼男の恋の相手にも秘密があります。
後のSF連作『レベルE』では、王子を脅かしていた宇宙人が、王子の協力者だったと分かります。
初期の読み切りと、後の連作から一編ずつ、何を隠していたのかを比べてみます。
どちらも、答えを知った後には、それまでのやり取りが違って見える話です。

狼男の拓狼が恐れているのは、好きな人との別れ

『狼なんて怖くない!!』は、1989年刊行の冨樫義博の初期短編集に収録された読み切りです。
表題作の主人公・拓狼は、満月の夜に変身する狼男です。
正体を知られるたびに転校してきましたが、今の学校では、早乙女さやかを好きになっています。

狼の顔を描いた冨樫義博短編集 狼なんて怖くない!!の電子版表紙
『狼なんて怖くない!!』冨樫義博/集英社。 出典

拓狼にとって、正体がばれることは、さやかと同じ学校にいられなくなることにつながります。
人間の姿で好きな相手に近づきたいのに、気持ちを伝えようとしたときにも狼の姿になってしまいます。
狼男という怪物の設定を、好きな人の前で自分を隠す恋の悩みへつなげた話です。

さやかに気持ちを伝えようとして狼の姿になった拓狼
さやかに気持ちを伝えようとする拓狼。『狼なんて怖くない!!』冨樫義博/集英社。 出典

合宿では拓狼がさやかを助けますが、さやかの前に狼の姿で現れることにもなります。
拓狼は、さやかが自分を怖がっていると考え、転校を思い浮かべます。
正体を知られたら別れるしかないという拓狼の考えが、この恋を難しくしています。

さやかにも、正体を隠す悩みがあった

さやかは拓狼を引き止め、キスをします。
その後に明かされるのが、さやか自身も吸血鬼だったという秘密です。
拓狼は、さやかを普通の人間だと思い、自分が狼男だと知られれば怖がられると考えていました。
実際には、さやかにも隠していた正体がありました。

種明かしによって、二人が同じ悩みを抱えて遠回りしていたことが分かります。
拓狼の正体が分かっても、さやかは拓狼から離れようとしていません。
狼男と知った相手に受け入れられるだけでなく、拓狼も、その相手が抱えていた秘密を知る話になっています。

『レベルE』では、危険な宇宙人が王子の協力者だと分かる

『レベルE』の最初の一編では、王子と護衛隊が、ディスクン星人に追い詰められたように見えます。
後から王子の日記を読むと、王子とディスクン星人が協力して、護衛隊を試していたと分かります。
日記が明かす協力関係を知ると、護衛隊が対応していた場面を読み直せます。
護衛隊が守ろうとしていた王子が、危機に見える場面を用意していたのです。

王子が出発前の計画と地球到着後の出来事を記した日記
王子が地球での出来事を記した日記。『レベルE』第3話、冨樫義博/集英社。 出典

日記を読んだ後、クラフトや雪隆は、王子に怒ります。
二人は芝居を知らずに、本気で対応していたからです。
危機が芝居だったと分かっても、王子に振り回された人たちの苦労は残っています。

王子の日記を読み終えた護衛隊と雪隆たちの反応
日記を読んだクラフトと雪隆たち。『レベルE』第3話、冨樫義博/集英社。 出典

『狼なんて怖くない!!』では、恋が進んだ後で、二人とも秘密を抱えていたことが分かります。
『レベルE』では、王子の計画を知った人たちの怒りが描かれます。
隠していたことを明かす場面が、前者では恋の悩みを解きほぐし、後者では王子に振り回された人たちの反応へつながっています。

まとめ

拓狼は、好きな人に自分の正体を隠していました。
『レベルE』の王子は、自分を守る人たちに、自分の計画を隠していました。
二つの話は、相手が知らないことを抱えたまま進み、種明かしによって、そのやり取りを別の立場から読めるようになります。
恋の悩みや宇宙人との騒動を一度楽しみ、秘密を知った後には、人物が何を知らずに話していたかを読み返す。
初期の読み切りにも、後のSF連作にも、短い話をもう一度楽しませる面白さがあります。

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