『レベルE』の主人公は誰?冨樫義博が章ごとに変える「騒動を体験する人」

王子とカラーレンジャーに選ばれた小学生5人 冨樫義博
『レベルE』冨樫義博・第6話。

『レベルE』の中心人物は、ドグラ星の王子です。
けれど、物語を読むときにいつも王子と同じ立場にいるわけではありません。
最初は高校生の筒井雪隆と一緒に、部屋へ入り込んだ宇宙人に戸惑います。
カラーレンジャーの話では、戦士にされてしまった小学生たちと一緒に、王子の無理な注文に付き合います。

王子が騒動を仕掛ける側にいて、雪隆や小学生たちは、その事態に対応する側にいます。
最初の騒動とカラーレンジャー編を比べると、同じ王子を残しながら、読者が付き合う人物を変える連作の作り方が見えてきます。

最初の騒動は、雪隆の引っ越しから始まる

第1話では、高校進学のために引っ越してきた雪隆が、新居の扉を開けます。
一人暮らしを始めるはずの部屋で、知らない男が椅子に座り、くつろいでいます。
王子の登場は、雪隆にとってはまず、自分の部屋を占領される出来事です。

雪隆の部屋で王子と初めて会う場面
雪隆の部屋に居座る王子。『レベルE』第1話、冨樫義博/集英社。 出典

雪隆は、この男がどこの星から来て何を企んでいるのか知りません。
王子の説明を疑い、追い出そうとし、それでも奇妙な出来事へ巻き込まれていきます。
読者も、王子の正体や狙いを少しずつ知ることになります。

宇宙人についての紹介は冒頭にありますが、王子の企みまでは明かされません。
雪隆が目の前の出来事にどう対応するかを読みながら、読者も王子を探ることになります。
宇宙人の能力より先に、厄介な同居人がいるという身近な困りごとが始まるのです。

王子を守るクラフトにも、別の困りごとがある

王子の護衛隊が現れると、王子との距離が違う人物も加わります。
クラフトたちは、王子を初めて見る雪隆とは違い、王子の厄介な性格を知っています。
しかも護衛隊には、王子の身を守る責任があります。

同じ王子の騒動でも、雪隆には突然押しかけた男とのトラブルであり、クラフトには職務に関わる危機になります。
ディスクン星人から王子の代わりに命を差し出すよう迫られる場面では、護衛隊がその要求にどう答えるかが問題になります。

ディスクン星人が護衛隊に王子の代わりの命を求める場面
ディスクン星人と向き合う護衛隊。『レベルE』第3話、冨樫義博/集英社。 出典

王子が仕掛けたことの全体は、後に王子の日記から明らかになります。
王子が楽しむ側にいる一方で、雪隆も護衛隊も、その仕掛けを知らずに対応しています。
冨樫さんは一人の王子を置きながら、王子に関わる人の立場を変えることで、騒動の受け止め方を変えています。

カラーレンジャー編では、小学生の生活から冒険が始まる

カラーレンジャー編の中心になるのは、王子に戦士へ選ばれた小学生5人です。
王子は地球を守る役目を持ち出しますが、子どもたちには、塾や稽古、デートといった自分の予定があります。
5人の反応は一様ではなく、赤川が地球の平和という言葉に引かれるやり取りもあります。
それでも、5人が自分たちで冒険を始めたわけではありません。
王子が持ち込んだ役目と、子どもたち自身の予定がぶつかるところから話が始まります。

5人は王子から特殊なリングを渡され、さらにゲームの冒険へも巻き込まれます。
リングを外そうとする場面では、小学生たちが元の生活へ戻ろうとする行動が話を進めます。
王子の頭のよさを見せる話であると同時に、5人が王子の注文をどう受け止め、自分たちで判断するかを読む話にもなっています。

王子がゲームの真の目的を子どもたちに語る原作の場面
王子が語る、ゲームの本来の目的。『レベルE』第9話、冨樫義博/集英社。 出典

ゲームの中で魔王が平和的な解決を選んだとき、王子は不満を示します。
子どもたちが安全なまま、本気で苦しむところを見たかったからです。
王子と5人は同じ冒険に関わっていますが、楽しみにしていることは一致していません。

王子は5人を困らせたいのに、5人は魔王の話を聞き、王子が期待した戦いを選びません。
子どもたちの判断に注目すると、王子の遊びから始まった冒険が、5人と魔王の関わりによって変わるところを読めます。
章ごとに中心となる人物を変える構成は、新しい顔を出すだけでなく、同じ王子の行動を違う立場から見せる働きを持っています。

章が変わっても、地球と宇宙人の世界は続いている

集英社は『レベルE』を、冨樫さんの「異色の連作集」と紹介しています。
長い冒険を一人の主人公にずっと追わせる形ではなく、同じ世界の中で、いくつもの騒動を描く作品です。

冒頭から、地球には多くの宇宙人が暮らし、そのことを地球人だけが知らないという世界が示されています。
その世界なら、雪隆の引っ越し先にも、小学生たちの生活にも、宇宙人が入り込めます。
話の中心が変わっても、物語の土台を毎回作り直す必要はありません。

冨樫義博『レベルE』第1巻の表紙
『レベルE』第1巻。冨樫義博/集英社。 出典

王子は繰り返し登場するので、別の章でも、読者は王子の厄介さを知ったまま読み始められます。
一方、王子と関わる人物が変われば、何に困り、何を望んで行動するかも変わります。
見知った王子をまた楽しみながら、今度は誰がどう巻き込まれるのかを読む。
その両方を楽しめるのが、この連作の構成です。

まとめ

『レベルE』で「主人公は誰か」と考えたとき、王子の名だけでは、雪隆や小学生たちに付き合って読んだ感覚を言い尽くせません。
王子には騒動を起こす面白さがあり、巻き込まれる人たちには、その騒動を別の方向へ進める面白さがあります。

王子が騒動を起こすことが分かっていても、その相手がどう答えるかは、別の楽しみとして残ります。
冨樫さんの連作を読む面白さは、中心人物を覚えることに加えて、章ごとに変わるその相手へ目を向けると、よりはっきりしてきます。

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