福本伸行さんは、山本周五郎などの小説を読み、気に入った台詞に線を引いていたと話しています。
そして漫画では、赤木しげるには赤木らしい言葉、カイジにはカイジらしい言葉があると考えていました。
読書で見つけた言葉の面白さと、自分の描く人物に合う言葉を選ぶこと。
その両方が、福本さんの台詞作りを知る手がかりになります。

山本周五郎を読み、様になる台詞に線を引いた
2020年の本人インタビューで、福本さんは、小説の台詞や言い回しに線を引いていた経験を振り返りました。
よく読んだ作家として挙げたのが山本周五郎です。
主人公が絡まれたとき、口にすると様になる言葉がある。
福本さんは、そうした言葉の選び方に惹かれていたのです。

福本さんは、喧嘩をパーティーにたとえて開始を告げる台詞も、気の利いた言い方の例に挙げました。
この例は山本周五郎の台詞ではないと、本人が断っています。
取材では、小説のどの一文が漫画のどの台詞になったかまでは示されていません。
人物に合う台詞を考える
同じ取材で福本さんは、赤木なら赤木らしい台詞があり、カイジには赤木とは違う台詞があるはずだと話しました。
その人物が口にしたとき、どんな言葉なら似合うかを考えています。
『天』では、麻雀から離れたひろゆきに、赤木が「熱い三流なら上等よ」と語ります。
赤木の言葉は、一流になれないと思って止まったひろゆきに向けられています。
ひろゆきと赤木の会話では、言葉を聞く側の挫折も描かれます。

『カイジ』の利根川は、鉄骨渡りを前にした債務者たちに「金は命より重い」と迫ります。
こちらは、金を必要とする人々を危険な勝負へ進ませる側の言葉です。
利根川の演説は、誰が誰に向かって話すのかを外すと、響き方まで変わります。

長い物語の途中にも、言葉の面白さを置く
福本さんが台詞に求めるものは、人生を語る大きな言葉だけではありません。
2023年の『モーニング』40周年インタビューでは、一つのネタを10話、20話かけて描く途中にも、その仕掛け以外の面白さが要ると話しています。
くだらない台詞、言葉遊び、あまり聞いたことのない理屈。
福本さんは、自分が面白いと思うそうしたものを、物語の途中に入れると説明しています。
結末を知りたくなる勝負に加えて、そこへ至るやり取りにも楽しみを作るのです。
名言集について語った2009年の本人インタビューでは、主役以外の言葉にも触れています。
『人生を逆転する名言集』には、『熱いぜ天馬!』の端役や、『カイジ』でゼッケン11番を着けた男の言葉も収められました。
福本さんは、ファンにも初めて出会う言葉があるのではないかと話しています。

まとめ
福本さんは2009年、名言集を、一つの言葉で立ち止まって考える本として勧めていました。
気になった台詞から原作に戻れば、それを言う人物と聞く人物のやり取りも読めます。
勝負の結末を追いながら、ときには一つの台詞で立ち止まってみる。
言葉の面白さを細部まで入れてきた福本さんの漫画は、そうした読み方も楽しめます。

コメント