田村由美と担当編集者|『7SEEDS』の場面を変えた「最初の読者」の視点

田村由美の漫画ミステリと言う勿れ第9巻、2021年の対談に掲載された書影 漫画家・作者
田村由美『ミステリと言う勿れ』第9巻。2021年の対談に掲載された書影/小学館。

田村由美さんが担当編集者に求めているのは、漫画のコマ割りや台詞をまとめたネームを読んで、疑問に思ったことを伝えてもらうことです。
『7SEEDS』では、担当の永田裕紀子さんの質問を受けて、花と新巻のやり取りを描き直したこともありました。
作者の頭の中では分かっている気持ちが、原稿からも伝わるか。
編集者の読み方が、その確かめ直しにつながったのです。

田村由美の漫画ミステリと言う勿れ第9巻、2021年の対談に掲載された書影
田村由美『ミステリと言う勿れ』第9巻。2021年の対談に掲載された書影/小学館。 出典

永田裕紀子は『7SEEDS』の途中から担当に

2021年の田村由美・永田裕紀子対談で、永田さんは2013年、『7SEEDS』の途中から担当になったと説明しています。
その後、一度担当を離れ、『ミステリと言う勿れ』が始まった後の2019年から、再び田村さんを担当することになりました。

田村由美の漫画7SEEDS第1巻、2021年対談に掲載された表紙
田村由美『7SEEDS』第1巻/小学館。 出典

永田さんがネームを読むときに心がけているのは、打ち合わせで聞いた話や先の展開をいったん置いて、初めて読む人の気持ちになることでした。
先を知っているから分かる、ではなく、描かれた内容から受け取れることを確かめる。
永田さんは、そういう「最初の読者」であろうとしています。

新巻の気持ちが伝わるように、数ページを描き直した

永田さんは、『7SEEDS』の花と新巻のやり取りを読み、どういう意味なのかと質問したことがあると振り返っています。
そのとき、永田さんが受け取った意味は、田村さんの意図と違っていました。

永田さんはネームにOKを出したものの、後日届いた原稿の下絵では、その場面が数ページにわたって変わっていたそうです。
永田さんは、その変化を面白くなったと評価しています。

田村さんは、新巻の気持ちを明確に描けていなかったと、その質問で気づいたと説明しました。
永田さんだけでなく、読者にも誤解が生じるかもしれない。
そこで、気持ちが伝わるように描き直したのです。

田村さんは、編集者から指摘を受けたとき、なぜその部分が分かりにくいのか、納得できないのかを知りたいと話しています。
理由が分かったら、描き方を考えるのは自分だという姿勢です。
花と新巻の場面でも、質問を手がかりに、作者自身が表現を改めていました。

描く中で人物の反応や相性を知っていく方法は、『7SEEDS』の人物作りの記事でも紹介しています。

『BASARA』では、二つの展開の順序を相談した

田村由美の漫画BASARA第1巻、2021年の対談に掲載された表紙
田村由美『BASARA』第1巻/小学館。 出典

編集者へ相談するのは、個々の場面だけではありません。
田村さんは、ページ数に収まるか、どの話を先に描くかといった、物語全体の組み方も相談すると話しています。

『BASARA』を始めたときの担当者には、二つの展開のどちらを先にするか、という相談もしていました。
その担当者は、すでに結果が見えている章なら早く先へ進めた方がいい、といった助言をしてくれたそうです。
田村さんは、全体の流れを見てくれる担当者だったと振り返っています。

その担当者が『BASARA』の8~9巻あたりで替わったときには、とても寂しかったとも語っています。
一緒に話しながら描いてきた相手が替わることは、田村さんにとって大きな出来事でした。

永田さんも、歴代の担当者から、田村さんの豊富なアイデアの中から選ぶ作業を手伝うように、と聞いたそうです。
田村さんが出した複数の案を、どう作品にしていくか。
対談では、作者と編集者がそこを一緒に考える関係が語られています。

『ミステリと言う勿れ』では、以前の台詞も確かめる

長い連載では、作者が以前のエピソードや人物の台詞を忘れてしまうこともある、と田村さんは話しています。
『ミステリと言う勿れ』では、整が迷っている人に大丈夫かと声をかける場面を描いたとき、永田さんが、整は以前その聞き方を避けるよう話していたと気づきました。
田村さんは、それを受けて少し直したそうです。

ミステリと言う勿れ第8巻、整とライカが美術館を訪れた原作の一場面
『ミステリと言う勿れ』第8巻「episode11 星降る舌八丁」の、整とライカが美術館を訪れる場面。©田村由美/小学館。 出典

永田さんは、その場面の台詞を、整が以前に話した内容とも比べて読んでいました。

まとめ

永田さんは、漫画家の長い仕事のうち、一時期を担当しているのが編集者だと話しています。
田村さんも、担当者が替われば判断や相性は違い、よく合う相手ともいずれ離れると語っています。

花と新巻の場面を書き直すきっかけは、永田さんが感じた小さな疑問でした。
話を知っている担当者が、それでも初めて読む人の立場に戻る。
その読み方が、作者の中にある人物の気持ちを、読者へ届く表現にするための助けになっていたのです。

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