望月ミネタロウはなぜ『ちいさこべえ』で原作付きの漫画に挑んだ?

望月ミネタロウ、原作・山本周五郎『ちいさこべえ』第4巻の書影 望月ミネタロウ
『ちいさこべえ』第4巻/望月ミネタロウ、原作・山本周五郎、小学館。

望月ミネタロウさんが『ちいさこべえ』を描いたのは、自分だけで物語を作ってきた方法を変え、新しい漫画へ進みたかったからです。
担当編集者と探した原作が、山本周五郎の小説『ちいさこべ』でした。
不幸な出来事から始まる小説に、望月さんは幸福感と人間への肯定を感じています。

同じ型を繰り返す前に、作り方を変えてみたかった

『ドラゴンヘッド』の恐怖、『万祝』の海洋冒険と、望月さんは異なる世界を自分の物語として描いてきました。
『万祝』を描き終えた後には、これまでと違う漫画を作りたいという考えがありました。

大和鮒子の顔が描かれた万祝第1巻の書影
『万祝』第1巻/望月峯太郎、講談社。 出典

2016年の本人インタビューでは、自分だけで創作に向き合う方法を続けると、同じ型を繰り返すかもしれないと話しています。
まだ同じ型を繰り返す段階には至っていませんでしたが、その危険を感じていたのです。
別の作者の物語を漫画にすることは、望月さんにとって、これまでとは違う作り方への挑戦でした。

編集者と探したのは、描きたいテーマに合う小説

望月さんには、職人の仕事や価値観、日本的な要素を描きたいというテーマがありました。
そこで、漫画にできる小説を探すために担当編集者へ相談します。
編集者が挙げた作品が、『ちいさこべ』でした。

山本周五郎の小説集『ちいさこべ』の書影
『ちいさこべ』/山本周五郎、新潮社。漫画の原作となる表題作を収録。 出典

望月さんは山本周五郎のほかの作品を読んでいましたが、この小説は知りませんでした。
読んでみると、求めていたものにぴったりだと感じたと説明しています。
先に描きたいことがあり、それに合う物語を編集者と探したという順序だったのです。

『ちいさこべ』は、大火ですべてを失った若い大工の棟梁が、みなしごたちの面倒も引き受けながら再建へ向かう物語です。
2015年の完結記念対談で望月さんは、火事で親や身寄りを失うところから始まるのに、原作には幸福感を覚えたと話しました。
望月さんが漫画で表したかったのは、そこで感じた人間賛歌でした。

ちいさこべえ完結記念イベントで対談する松浦弥太郎と望月ミネタロウ
2015年4月2日の『ちいさこべえ』完結記念イベントで対談した、松浦弥太郎さんと望月ミネタロウさん。 出典

時代劇のネームを試してから、現代劇へ変えた

望月さんは最初、原作と同じ時代劇としてネームを描きました。
ところが、そのネームは本人にとってファンタジーのように見え、現実味を感じられませんでした。

現代劇に変えると、人物の細かな部分を作りやすくなったと話しています。
小説から受け取ったものを、自分が人物を具体的に描ける時代へ移したのです。

対談会場に映された、りつと茂次が登場するちいさこべえ第1話の見開き
対談会場に映された『ちいさこべえ』第1話の見開き/望月ミネタロウ、原作・山本周五郎、小学館。 出典

望月さんは、原作の文章の行間にあるものを描きたいとも説明しています。
漫画では日々の暮らしを丁寧に描き、人物の気持ちを動作や持ち物、装いから伝える方法を選びました。
時代を変えることは、望月さん自身が人物の生活を描きやすくするための判断でもありました。

まとめ

『ちいさこべえ』をたどると、小説を選んだ後にも、漫画を作るための判断が続いていたことが分かります。
原作の人間への肯定を受け取りながら、時代設定を変え、日々の暮らしから気持ちを伝える描き方を選ぶ。
作品ごとに描きたいものを選んできた望月さんは、この仕事でも、原作の魅力をどう漫画で伝えるかを試していたのです。

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