福本伸行さんは、赤木しげるに、格好のいい男の理想像を重ねたところがあるかもしれないと振り返っています。
一方、『最強伝説 黒沢』では、仕事や暮らしが思うようにいかない中年男性を参考にしたと語りました。
自分も生活が立ち行かなくなるかもしれない。
若い頃の福本さんが感じた、そんな不安も、黒沢の人物像を知る手がかりになります。

赤木には、格好のいい男の理想像がある
2018年の『近代麻雀』完結記念インタビューで、福本さんは、赤木を初めて描いたときから、赤木以上に強い男はいないと決めていたと話しています。
赤木は、その時点では『天』の主人公のライバルでした。
別作品の主人公になる前から、作者にとって特別な強さを持つ人物だったのです。
『天』から『アカギ』が生まれた経緯にも、その扱いが表れています。

福本さんは人物像についても、自分の中にある、格好のいい男の極みのような理想を、無意識に投影した部分があるかもしれないと語りました。
後に『アカギ』を担当する若島茂男さんも、2017年のインタビューで、第1話を読んだ印象を語っています。
中学生の赤木は、麻雀を知らないまま、大人も尻込みする勝負に入り、ヤクザを相手に勝ってしまう。
若島さんは、何をすれば一番格好よくなるかを考え抜いた人物だと評価しました。

黒沢の不安は、作者にも他人事ではなかった
黒沢について語った2009年の本人インタビューでは、福本さんは、何もかもうまくいかない40代の男性をモチーフにしたと説明しています。
結婚や子育て、仕事での出世といった道を進めなかった人たちが、参考になりました。

福本さんは、若い頃、住まいを失った人を見て、自分にもありうることだと感じていました。
何日か働けなくなれば、いずれ家賃を払えなくなるかもしれない。
そう考え、暮らしが崩れる不安を、他人事として片づけられなかったと話しています。
これは、若い頃の生活への不安を振り返った話です。
独身で給料が安く、先の生活が見えない中年男性の気持ちは、ある程度想像できる。
福本さんが語ったのは、黒沢の苦しさへ近づける、自分自身の感覚でした。
黒沢の冴えなさや将来への不安には、作者も共有できる感覚があるのです。
人物が変われば、言葉も変わる
福本さんは2020年の本人インタビューで、赤木には赤木らしい台詞があり、カイジには別の台詞があるはずだと話しています。
その人物に、どんな言葉が似合うかを考えるのです。
人物に合わせて台詞を作る話にも、赤木とカイジを、それぞれ別の声で語らせる福本さんの考えが表れています。
まとめ
赤木の強さを追う楽しみと、黒沢の暮らしを気にかける楽しみは、同じものではありません。
黒沢を描いた背景には、作者も共有できる不安がありました。
福本さんの主人公たちは、格好よさで惹きつけるときもあれば、みじめさを含めて身近に感じさせるときもあるのです。


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