皆川亮二さんの短編をまとめて読むなら、2021年刊の『転送者 皆川亮二短編集』があります。
SFアクション、野球、戦車、おばさんが活躍するバトル、諫山創さん原作の将棋漫画という5作品を収録した、全1巻の短編集です。
それぞれの制作を振り返る皆川さんの解説も付いています。
『スプリガン』や『ARMS』の長い戦いで皆川さんを知った人には、野球や将棋の漫画まで描いていたことが、まず気になるのではないでしょうか。
この一冊では、長編の続きを追う時とは違う題材に出会えます。

『転送者』は、未来から来た男が少女を守るSFアクション
表題作『転送者 THE INTRUDER』は、20年後の世界から送り込まれた男が登場する、前後編のSFアクションです。
男は少女に、未来から彼女を守るために来たと伝えます。
少女は驚きますが、男は自分の役目をはっきり伝えています。

少女の驚きと、男の迷いのない言葉。
護衛の宣言をどう受け止めるか、二人のやり取りが気になる始まりです。
皆川さんのSFアクションを短編で読んでみたい人には、表題作が入口になります。
野球を描く『ユーキャンドゥーイット?』と、台詞のない『奪還』
『ユーキャンドゥーイット?』は、皆川さんが初めて描いた野球漫画です。
球を放す手、迫る球、バットを振り抜く打者。
投球から打撃までを順に見せ、プレーする身体の勢いを描いています。

銃撃や超能力の戦いとは別の、投げる・打つという動きを楽しめる題材です。
戦車を題材にした『奪還』は、サイレントコミックです。
台詞の説明を頼りにせず、戦車の動きや、車内の人物の表情から出来事を追っていきます。

砲撃する戦車に続いて、車内の兵士の顔が入り、さらに車外の戦車へ戻る。
台詞がない分、場面のつながりや表情に目を向けて読む作品です。
『S.O.L』では、おばさんが自転車で暴れる
『S.O.L STRONG OLD LADY』は、謎のおばさんが活躍する前後編のバトル漫画です。
目を引くのは、買い物かごの付いた自転車に乗るおばさんの姿。
身近な乗り物が、勢いのあるアクションの中に持ち込まれています。

皆川さんは戦車を描く一方で、こうした自転車も動かしてみせる。
皆川作品の乗り物を見る楽しみを、軍用の機械とは違う方向に広げてくれる短編です。
諫山創が原作を担当した将棋漫画『the Killing Pawn』
『the Killing Pawn』は、『進撃の巨人』の諫山創さんが原作、皆川さんが作画を担当した共同作品です。
小学館の紹介では、将棋バトルとして案内されています。
舞台には碁会所が登場し、そこへ一人の男がやって来ます。

どんな勝負が始まるのか、という入口から読める短編です。
皆川さん自身の作品に加えて、別の漫画家の原作を皆川さんが描いた作品も、同じ一冊に収められています。
著者の「プレイバック解説」と、電子版のカラー
この短編集には、作品ごとに、皆川さんが誕生の裏側を語る「プレイバック解説」があります。
掲載当時の表紙イラストや、描き下ろしの絵も収録されています。
漫画を読んだあとに、その作品を描いた人の話へ進める構成です。
収録内容は、小学館の刊行案内で確認できます。
電子版では、雑誌掲載時のカラー原稿やカラーイラストが再現されています。
カラーも読みたい人には、版を選ぶ時の確認点になります。
皆川さんのデビュー作も知りたいなら、『HEAVEN』の完全版は、別の本『漫画家本vol.2 皆川亮二本』に収録されています。
『HEAVEN』は、この短編集の5作品には入っていません。
長いインタビューやラフなども読みたい人には、『皆川亮二本』の収録内容も参考になります。
まとめ
『スプリガン』や『ARMS』に惹かれた理由が、絵の動きだった人にも、SFの設定だった人にも、この短編集には別の題材から楽しみを探す余地があります。
皆川さんが野球を描き、自転車のおばさんを走らせ、諫山さんの将棋漫画を形にする。
長編の壮大な戦いから離れると、身近な動作や乗り物も、皆川さんのアクションを楽しむ題材になります。
さらに著者解説へ進めば、完成した漫画と、その漫画が生まれた話を行き来できます。
長編を描く人として知った皆川さんの仕事を、短い作品から広く眺めるための本です。


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