藤田和日郎と片山ユキヲの師弟関係――違う漫画を描いても続く、作品をめぐる会話

片山ユキヲと藤田和日郎の師弟対談/2018年公開、講談社。マガポケベース掲載の映像。 漫画家・作者
片山ユキヲと藤田和日郎の師弟対談/2018年公開、講談社。マガポケベース掲載の映像。

藤田和日郎さんの元チーフアシスタント、片山ユキヲさんは、独立後に『花もて語れ』『ふろがーる!』などを描いてきました。
藤田さんと同じ仕事場を経験した漫画家が、朗読やお風呂を題材に選んだのです。

二人の関係がよく伝わるのは、2018年に公開された『夜明けの旅団』1巻発売記念の師弟対談です。
片山さんの新作を手にした藤田さんは、作品の始まりを絶賛し、原稿を自分のものにしたいとまで冗談を言います。
助手が独立した後も、師匠はその漫画を読む人であり、仕事について話せる相手でした。

潮の後ろに、片山ユキヲが描いた背景があった

対談では、藤田さんが『うしおととら』を描いていた頃の話も出てきます。
藤田さんが小さく描いた潮の後ろに、片山さんがたくさんの背景を描いてくれたという回想です。
二人は、一枚の原稿を一緒に仕上げていた仲間でした。

独立後の対談でも、藤田さんは片山さんにアシスタントを大切にするよう声をかけます。
かつて背景を任されていた片山さんが、今度は自分の漫画で助手に支えてもらう立場になっていました。
作品を完成させる仕事の経験は、独立した後の会話にもつながっています。

片山ユキヲ(左)と藤田和日郎(右)/2018年公開の師弟対談。講談社。
片山ユキヲ(左)と藤田和日郎(右)/2018年公開の師弟対談。講談社。 出典

二人のやり取りには冗談も多く、片山さんが丁寧な言葉を使うと、藤田さんは普段と違う話し方をからかいます。
仕事の話の中に、同じ現場で過ごした者同士の気安さが見える対談です。

片山ユキヲが選んだ、朗読を漫画にする道

片山さんは、前の作品で、藤田さんの漫画よりも優しい世界を描きたかったと対談で話しています。
その仕事を具体的に知るには、『花もて語れ』についての本人の言葉が手がかりになります。

『花もて語れ』は、人前で話すことが苦手な主人公が朗読に出会う漫画です。
2012年の東百道さんとの対談では、片山さんが朗読の視点と漫画の描写について語っています。
文学作品が誰の視点で語られているかを理解すると、場面を絵にしやすくなるという説明です。

『花もて語れ』/©片山ユキヲ・東百道/小学館。2012年の本人取材に掲載された原稿。
『花もて語れ』/©片山ユキヲ・東百道/小学館。2012年の本人取材に掲載された原稿。 出典

片山さんは、登場人物のドラマに加えて、読者が朗読や文学そのものに興味を持ってくれることも望んでいました。
漫画を読んだ後、声に出して語る世界へ関心が広がる。
片山さんは朗読指導者の東さんから、作品の視点に注意することを学び、その理解を漫画の描写にも生かしていました。

『夜明けの旅団』を、師匠が読者として楽しむ

片山さんが後に手がけた『夜明けの旅団』は、死霊との戦いを描くホラーファンタジーでした。
その新作の導入を、藤田さんは映画のようだと褒めています。
同じ現場で働いた相手の漫画について、具体的にどこが面白いかを話すところが、二人らしいやり取りです。

対談で紹介された『夜明けの旅団』/片山ユキヲ、講談社。2018年公開の対談映像。
対談で紹介された『夜明けの旅団』/片山ユキヲ、講談社。2018年公開の対談映像。 出典

藤田さんは、片山さんが見せる原稿に自分も何か描けば、自分の作品ということにできるのではないか、と冗談を言います。
助手が師匠の原稿を手伝っていた頃の話が、今度は師匠が弟子の原稿へ描き足したがる笑いに変わっているのです。

片山さんも、藤田さんの作品に影響を受けたことを対談で話しています。
『うしおととら』を参考にした場面が『夜明けの旅団』にあるという説明です。
自分の題材を選びながら、師匠の漫画で得たものも制作に使っていました。

片山ユキヲ/2018年公開の師弟対談。講談社。
片山ユキヲ/2018年公開の師弟対談。講談社。 出典

まとめ

この対談の面白さは、師匠が弟子の作品に質問し、弟子も自分の表現について話しているところです。
背景を任せる相手だった片山さんが、藤田さんが楽しんで読む漫画を描く人にもなっていました。
独立した後の師弟関係を知ると、藤田さんの作品から、そこで働いた漫画家それぞれの作品へと、読む楽しみが広がります。

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