藤田和日郎のアシスタントは何を学ぶ?「無口禁止」の仕事場で交わす言葉

藤田和日郎の仕事場/2019年の本人取材。いちあっぷ掲載写真。 漫画家・作者
藤田和日郎の仕事場/2019年の本人取材。いちあっぷ掲載写真。

藤田和日郎さんがアシスタントに伝えてきたのは、絵の技術に加えて、自分が何に心を動かされたのかを言葉にすることです。
一方で、藤田さん自身も、アシスタントを作品の相談相手として頼っていました。

「無口禁止」という決まりで知られる仕事場には、教える側も教わる側も、自分の考えを話し、相手の意見を聞くやり取りがあります。
2019年と2025年の本人取材から、その中身を見ていきます。

自分の「好き」を、具体的に話せるようにする

藤田さんは2025年の本人取材で、読者の感情を動かすことは技術であり、技術なら仲間へ伝えられると話しています。
決まったカリキュラムがあるのではなく、漫画で大切なことを、仕事をしながら具体的に繰り返し伝えているそうです。

藤田和日郎/2019年の本人取材に掲載された写真。
藤田和日郎/2019年の本人取材。いちあっぷ掲載写真。 出典

新人には、何が好きなのか、どんなところで泣いたのか、何を描きたいのかを、なるべく言葉にするよう求めていました。
たとえば人物の魅力を話す時も、優しいという一言で済ませず、どんな場面でどう振る舞う人なのかまで考えます。

藤田さんは、好きな映画について話すうちに、それまで理解できなかった説明が腑に落ちることもあると、例を挙げています。
自分が楽しんだ作品と、漫画を作るための説明を結びつける。
言葉にすることは、自分の好みを創作へ生かすための準備にもなっています。

「無口禁止」は、作者自身が描きやすくするためでもある

2019年の本人取材で藤田さんは、周りが話してくれると、作業中に嫌な記憶ばかり考えずに済むと説明しています。
藤田さんへ話しかける必要はなく、隣の人同士の会話でも助けになるといいます。

2019年の取材で紹介された、藤田和日郎の仕事場で作画するアシスタント
藤田和日郎の仕事場で作画するアシスタント/2019年の本人取材。いちあっぷ掲載写真。 出典

会話のある環境は藤田さん自身の助けになり、同時に、考えを人へ伝えることも仕事場で大切にされていました。
藤田さんは、企画を通す際には、絵やネームに加えて、編集者へ自分の意図を説明する必要があると話しています。

自分の企画を持ち込む時にも、何を描きたいのか、描いたものをどう読んでほしいのかを説明する。
藤田さんは、漫画家自身が考えを伝えることを大切にしていました。

藤田自身も、アシスタントへ作品の相談をする

アシスタントから意見を聞くのは、藤田さんも同じでした。
2019年の取材では、当時連載していた『双亡亭壊すべし』について、泥努をどう倒すかという重要な話まで相談すると明かしています。

藤田さんがありがたいと感じるのは、自分が面白いと思った案を、周りはそれほど面白いと思っていないと分かる時でした。
普段から同じものを見て話している相手だからこそ、違う意見も受け止められるといいます。

藤田和日郎の仕事場/2019年の本人取材。いちあっぷ掲載写真。
藤田和日郎の仕事場/2019年の本人取材。いちあっぷ掲載写真。 出典

2025年の取材でも、みんなの力がなければ原稿が完成しないと伝えると、アシスタントが絵の間違いを指摘してくれると話しています。
指の本数の間違いを教えてくれるという例も、本人の説明に出てきます。
物語の相談に答えることも、作画の間違いを指摘することも、藤田さんの漫画づくりを支える仕事でした。

プロの現場を知り、自分の漫画へ進む

藤田さんは、アシスタントの経験には、技術を磨くことと、漫画家・編集者・出版社がどう動くかを間近に知る価値があると説明しています。
自身も、あさりよしとおさんのアシスタントをした経験が、プロの仕事を知る助けになったと振り返りました。

仕事場に掲げられた2019年の抱負/いちあっぷ掲載写真。
仕事場に掲げられた2019年の抱負/いちあっぷ掲載写真。 出典

仕事場から独立した安西信行さんや雷句誠さんについて、藤田さんは、漫画が好きで、それぞれに譲れないものを持っていたと話しています。
ネームを描き、編集者の話を聞き、へこたれずに取り組んでほしいという言葉も、その取材にあります。

その学びを自分の連載へつなげるには、本人がネームを描き、企画を通すために取り組むことも欠かせません。
安西信行さんが独立後に連載をつかむまでにも、ネームを作り続けた時期がありました。

まとめ

自分がなぜ面白いと感じたのかを話し、相手の受け止め方も聞く。
藤田さんの仕事場の対話には、自分の好みを漫画の工夫へつなげる学びがあります。

アシスタントが好みや意見を話すことは、藤田さんの連載にも役立っていました。
自分の漫画へ向けて学ぶ新人と、いま描く作品を面白くしたい作者が、互いの考えを聞く。
教える人も意見を受け取るところに、この仕事場で言葉を交わす意味があります。

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