『双亡亭壊すべし』を始めた藤田和日郎さんには、主人公の役割を何人もの人物に担わせる、集団の漫画を描きたいという思いがありました。
作品名にも、最初から倒す対象を読者に伝える意図がありました。
誰の話を追うのかは広がっても、登場人物たちがどこへ向かうかは、題名から分かる。
藤田さんが、この企画で目指した物語の組み立て方です。

旧作にもいた、複数の中心人物
『うしおととら』には潮ととら、『からくりサーカス』には勝、鳴海、しろがねがいます。
藤田作品には、少年の主人公とは別の視点から、ほかの中心人物も物語を動かす構成がありました。
藤田さんは2019年の本人インタビューで、『双亡亭壊すべし』では、主人公的な人物を何人も登場させたいと語っています。
一人を決めて、その周りへ人物や話を置いていく作り方とは違う、集団を描く企画でした。

凧葉は売れない画家、青一は不思議な力を持つ少年、緑朗と紅は姉弟です。
能力も境遇も違う人物が、同じ屋敷へ関わっていきます。
仮タイトルは『あの家を壊せ』だった
最初の仮タイトルは、『あの家を壊せ』でした。
藤田さんは、自分の旧作では最後に倒す敵が登場するまで時間がかかることを挙げ、今回は題名から、倒す対象を明らかにしたかったと説明しています。

ただ、題名から分かるのは目標です。
藤田さんは2017年公開の本人インタビューで、空爆でも壊れない屋敷をどう壊すのか、なぜ壊れないのか、各人が壊そうとする理由は何なのか、謎はまだ多いと話しています。
何をする物語かを示しながら、その方法と理由は読み進める楽しみに残していました。
題名は、謎の多い物語の行き先を、読者がつかむためにも働いていたのです。
中心人物が変わっても、双亡亭へ向かう
連載中には、物語の中心になる人物も移っていきます。
藤田さんは2018年の本人メッセージで、ヤドリギ隊長たちが活躍している当時の展開に触れ、物語の中心は泥努や凧葉へ戻ると伝えています。
双亡亭に関わる人々を、場面ごとに追いながら描いていたことが分かります。

第1話で怪異と戦う少年・青一の力も、最初から屋敷を簡単に壊す答えにはなっていません。
藤田さんは2017年の取材で、力の使い方によっては屋敷を壊せるかもしれず、双亡亭についての知識も攻略に役立つかもしれない、と説明しています。
異なる人物が持つ力や知識を、どう生かせるのか。
屋敷を壊すという目標が見えていても、その過程で誰が何をできるかには、まだ興味が残ります。
凧葉の性格と強さをそうした物語へどう配置したかは、凧葉のモデルと人物設定を紹介した記事で扱っています。
まとめ
藤田さんの漫画には、違う境遇にいた人物が、力を合わせて戦う面白さがあります。
『双亡亭壊すべし』でも、屋敷を壊すという目標の下に、違う境遇や能力を持つ人物が集まります。
誰が最も強いかだけでなく、誰がどんな役割で関わり、ほかの人物とどうつながるかを追える。
集団を描く企画を知ると、題名が示す一つの目標へ、いくつもの人物の話が向かっていく面白さも楽しめます。

コメント