藤田和日郎さんは、怖い漫画を読み続けてもらうために、登場人物の性格にも気を配っています。
『双亡亭壊すべし』の凧葉務を飄々とした人物にしたのは、怖いものが苦手な読者にも安心してもらうためでした。
藤田さんは、幽霊屋敷の怖さを描くため、凧葉を万能な主人公にはしなかったとも説明しています。
性格には親しみを持てるが、戦いの行方には不安が残る。
二つを両立させる人物づくりを、藤田さん自身の説明から見ていきます。

凧葉のモデルは、殺虫スプレーを持つ稗田礼二郎
凧葉は、美術大学を卒業した絵描きです。
初登場の自己紹介では、絵本の仕事を望みながら、出版社で話を聞いてもらえない境遇をぼやいています。

藤田さんが2019年の本人インタビューでモデルとして挙げたのは、映画『ヒルコ/妖怪ハンター』の稗田礼二郎でした。
沢田研二さんが演じる稗田は庶民的で、武器には殺虫スプレーを使います。
藤田さんは、一見すると弱腰でも、肝心な場面で動じない、その人物像に惹かれました。
凧葉に持たせたかったのも、そんな飄々とした性格です。
お化け屋敷へ立ち向かう人物が軍人や霊能者ばかりだと、息苦しくなる。
藤田さんは、凧葉のような人物がいることで、怖がりな読者も安心できると考えたのです。
凧葉を強くしすぎなかったのは、幽霊屋敷を怖くするため
凧葉の飄々とした性格とは別に、藤田さんは、2020年の本人インタビューで、凧葉の弱さにも理由があると話しています。
『双亡亭壊すべし』では、幽霊屋敷の恐怖を描きたかった。
そのため、主人公がいさえすれば勝てる、という設定にはできなかったのです。

凧葉の強さを抑えることと、性格を親しみやすくすることは、別々の働きを持っています。
怪異の前で何が起こるか分からない怖さを残しながら、その場にいる人物には近づきやすくする。
凧葉は、その両方を担うための人物でした。
藤田さんは同じ取材で、一般人が気力を奮い立たせ、怪異と戦う話を描き続けているとも語っています。
藤田さんが興味を持つのは、それぞれの立場にいる人物が、どのように立ち向かい、挑戦するかです。
ピエロの滑稽さは、怖さと同居できる
『からくりサーカス』の自動人形について、藤田さんはピエロのかわいさと怖さの両面を挙げています。
その二面性が、滑稽でありながら恐ろしい人物を作るヒントになりました。

凧葉の場合は、恐ろしい場所に親しみやすい人物を置きました。
自動人形では、一人の人物の中に、滑稽さと恐ろしさを持たせています。
一人の人物が見せる異なる印象を組み合わせることが、藤田さんのいう人物の厚みにつながっています。
人形が作品の題材になるまでの調べ物は、『からくりサーカス』の着想をたどった記事でも紹介しています。
まとめ
藤田さんは、『ケトルVOL.52』の取材で、怖い話を描いても、読後には明日へ向かう気持ちになってほしいと語っています。
怖い場所でも、人物の振る舞いや、立ち向かう姿を追っていける。
普通の人物が物語を動かすという藤田作品の魅力は、凧葉の親しみやすさと弱さにもつながっています。
怪異の形だけでなく、怪異を前にした人物へ目を向けると、藤田さんが読者を怖い場所へ連れていく工夫も見えてきます。

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