『幽遊白書』蔵馬と幽助――妖怪の正体と、人間として生きた時間

人間の姿の蔵馬の背後に妖狐が重なる十九巻のイラスト 幽☆遊☆白書
冨樫義博『幽☆遊☆白書』19巻/集英社

蔵馬は、妖力が回復したら、人間の家庭から姿を消すつもりだった。
幽助は、人間界へ帰ろうと仲間を促しながら、実は帰還を迷っていた。
二人の過去とその後を比べると、人間界での生活が、それぞれに違った意味を持つことが見えてくる。

蔵馬には、母に育てられるうちに得た愛情がある。
幽助には、魔族の自分を知ったあとも続く人間との付き合いがある。
二人の正体と、人間として築いた関係を合わせて読むと、終盤に人間界で暮らす姿の意味も変わってくる。

蔵馬の潜伏先は、離れがたい家庭になった

傷を負った妖狐の蔵馬は、人間界へ逃れて胎児に宿る。
南野秀一として育つ生活は、失った力を取り戻すまでの一時しのぎだった。
本人も、十年ほどたてば姿を消すつもりだったと説明している。

その予定を変えた出来事として、蔵馬は母にかばわれた日のことを語る。
幼い秀一が椅子から落ちかけた先には、割れた食器が散らばっていた。
母は息子を受け止め、両腕に傷を負う。
出血する自分の腕より先に、秀一にけががないかを気にしている。

幼い秀一をかばって傷を負う母と、家を出られなかった蔵馬の回想
冨樫義博『幽☆遊☆白書』カラー版3巻/集英社

蔵馬は家を出ようとするたびに、母の傷や笑顔を思い出して踏み切れなかった。
母が病に倒れると、自分が彼女を母として慕っていることを思い知らされる。
生き延びるために利用したはずの家庭が、離れがたい場所になっていたのだ。

母を救おうとする場面では、命と引き換えに、十五年間だましてきた罪を少しでも償いたいと語る。
母への愛情と、正体を隠して育ててもらった罪悪感が、同じ場面にある。

ここで蔵馬の過去と現在を比べると、南野秀一という存在の意味が変わっている。
初めは逃亡のために人間の息子として暮らし始めた。
その母から離れられなくなり、命を差し出してでも救おうとするようになった。
妖狐だという正体を明かしても、南野秀一として育った愛情まで仮のものにはならない。
蔵馬には、妖狐の過去に加えて、人間の家庭で生まれた気持ちもある。

幽助は、育った世界へ戻ることに迷う

幽助の帰還に目を向けると、蔵馬とは別の変化が見えてくる。
仙水との戦いを終えた幽助は、仲間に人間界へ帰ろうと言う。
その言葉を振り返り、内心では「実を言うと 迷ってた」と明かす。
育った世界へ帰ることが、迷わず選べるものではなくなっている。

人間界に戻ったあと、北神との会話では、人間を食べることを妖怪にとっての食事の問題として扱う。
黒呼はその受け止め方を聞き、幽助に魔界へ行くよう勧める。
人間界の住人ではない気がすると告げられ、幽助も「そうかもしんねェな」と応じた。

人間が食べられることへの幽助の反応を聞き、魔界へ行くよう告げる黒呼
冨樫義博『幽☆遊☆白書』17巻/集英社

幽助には帰還を迷った自覚があり、黒呼の言葉にも理解を示している。
この二つの反応からは、人間界を自分の暮らす場所と考える気持ちが、本人の中でも揺れていると読める。

母との暮らしが蔵馬を家庭に引き留めたのに対し、幽助には、人間界で育った経験があっても帰還を迷う時期があった。
二人を同じ妖怪と呼ぶだけでは、人間の暮らしとのこうした関わりの違いは分からない。

妖怪の自分を持ったまま、人間界で暮らす

魔界から帰った幽助は、人間界でラーメンの屋台を引き、妖怪関係の何でも屋も始める。
螢子から仕事を頼まれる場面では、以前からの付き合いの中へ、妖怪に関わる仕事が入ってくる。
人間として育った自分も、妖怪と関わる自分も、その生活に残っている。

蔵馬も、終盤には義父の会社で働いている。
力が戻れば去る予定だった家庭との関係が、学校を出たあとの生活にも続いている。
潜伏のために始めた暮らしが、本人の人生として続いていると読める。

人間の姿の蔵馬と、その背後から腕を回す妖狐を描いた十九巻のカット
冨樫義博『幽☆遊☆白書』19巻/集英社

十九巻のカットには、人間の姿の蔵馬と、その後ろから腕を回す妖狐が一緒に描かれている。
妖狐に抱え込まれているようにも、秀一が妖狐の過去を背負って立っているようにも見える。
どちらの姿も消えていない構図は、人間界で暮らす蔵馬が、妖狐の過去も持つことを考えさせる。

蔵馬の人間生活は、潜伏のための一時しのぎから、家族と生きる本人の人生へ変わった。
幽助は、魔族としての自分に気づいて帰還に迷い、その後も人間として築いた関係を続けている。
「人間の自分」は、妖怪の正体が明らかになったあとも、家族や友人との関係の中に残っている。
二人が人間界で暮らす結末には、妖怪としての過去や血筋と共に、人間として生きた時間を大切にする姿がある。

この記事もおすすめ

コメント

アクセス解析について
タイトルとURLをコピーしました