『るろうに剣心』の旧本編を読み終えた後、題名の違う関連作がいくつも現れます。
このうち『キネマ版』は本編を別の形で描き直した物語、『第零幕』は剣心が東京に来る前の短編、『明日郎 前科アリ』は『北海道編』へつながる序幕です。
三作を一続きの続編として読むと、時間の順序が分かりにくくなります。

なぜ完結した『るろ剣』をもう一度描いたのか
『るろうに剣心』の連載を終えるとき、担当編集者の佐々木尚さんは和月伸宏さんに、人気のあるうちに終わる以上、今後は剣心を描かないようにと言いました。
ところが実写映画が作られると、同じ佐々木さんが映画に合わせて剣心の漫画を描こうと提案します。
和月さんは2016年の本人への取材で、初めは描いてよいのかと驚いたものの、自分でも剣心を見つめ直す機会になると考えた、と振り返っています。
最初から『キネマ版』を描くと決めていたわけではありません。
旧本編の後を描く案や、剣心が東京に来る前を描く案も考えました。
しかし、映画に合わせて発表するなら剣心の話にしたい一方、東京以前の物語では既存の仲間たちをあまり登場させられません。
そこで、前日譚を読み切りの『第零幕』とし、剣心たちが集まる別の物語を『キネマ版』として始めたのです。
『キネマ版』は、旧本編の次に起きた話ではない
『キネマ版』は、連載が終わった旧本編の続きを描く漫画ではありません。
集英社の作品紹介は、連載前の草案をもとに物語を再構築した「もうひとつの本編」と説明しています。
剣心や仲間たちを使い、旧本編の序盤を違う構成で描いた作品です。
和月さん自身も2016年の取材で、原作のパラレルワールドのような漫画だと話しています。

昔描いた人物を描き直す仕事は、和月さんにも簡単ではありませんでした。
本人は、剣心の髪の線が初めはうまく描けなかったと振り返っています。
その一方で、旧本編の序盤には、自分が後年に強く記憶していた人斬りの重さだけでなく、明るさや笑いもあったと思い出しました。
『キネマ版』は映画の台本を漫画にしたものではなく、時間を置いた作者が自作を別の形で描いた作品なのです。
『第零幕』は、東京へ来る前の剣心を描く
『第零幕』の舞台は、剣心が東京に流れ着く前の横浜です。
集英社の紹介も、旧本編より前の剣心の話として案内しています。
『キネマ版』と同じ映画の時期に発表された作品でも、本編の描き直しではなく、連載本編より前の空白を描いた短編です。
『第零幕』は『キネマ版』の続きでも、『北海道編』の始まりでもありません。
『キネマ版』と『第零幕』は、『るろうに剣心―特筆版―』上巻に収録されています。
文庫版『アナザーストーリーズ』にも、志々雄真実と駒形由美を描く『炎を統べる』とともに収録されています。
『明日郎 前科アリ』は、『北海道編』の入口
『明日郎 前科アリ』は、旧本編より後の世界で、新しい若者たちを先に紹介する前後編です。
和月さんは2016年の取材で、『北海道編』には新しい人物が必要だが、読者はまず剣心たちを見たいはずだと考えた、と話しています。
新人物を突然長編に入れる前に、明日郎たちの話を短編として描いたのです。

『明日郎』は、単行本では独立した巻を探す必要はありません。
『北海道編』第1巻の目次では、前編・後編が「序幕」として置かれ、その後に『北海道編』の第一幕が始まります。
旧本編から『北海道編』へ進みたい人は、その第1巻を冒頭から読めば、明日郎たちとの出会いを飛ばさずに読めます。
読む順番は、何を知りたいかで決められる
剣心たちのその後を追いたいなら、旧本編を読んでから『北海道編』第1巻へ進む順番が分かりやすいです。
同巻の最初には『明日郎 前科アリ』が入っています。
一方、完結した本編を和月さんが後年どう描き直したかに興味があれば、『キネマ版』を読めます。
東京で仲間と出会う前の剣心を知りたければ、『第零幕』を読めます。
この二作は旧本編と『北海道編』の間に必ず挟む巻ではありません。
まとめ
和月さんが完結した『るろうに剣心』へ戻ったとき、一つの続きを順番に書き足したわけではありません。
『キネマ版』でかつての本編を描き直し、『第零幕』で描かれていなかった過去へ戻り、『明日郎』で新しい人物を加えて本編の先へ進みました。
旧本編から続く物語を読みたい人は『北海道編』第1巻へ。
完結作に作者がどう戻ったかを見たい人は『キネマ版』と『第零幕』へ。
読者が知りたい方から選べるのは、三作が異なる仕事をしているからです。


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