樹林伸は複数の原作をどう書く? 頭の中の準備と周囲の支え

帽子をかぶり、2022年の本人インタビューに応じる樹林伸 樹林伸
gamebizの2022年11月29日公開インタビューより。

『金田一少年の事件簿』『GetBackers』『神の雫』など、樹林伸は違うジャンルの漫画原作を手がけてきました。
本人によれば、原稿を書く時間の前から、日常の中でいくつもの作品について考えています。
構成を頭の中で組み立ててから、文章にするのです。

多くの仕事を抱えていた編集者時代には、制作進行や原稿の書き起こしを支える人もいました。
2019年と2022年の本人取材から、樹林さんが複数の仕事を進めてきた方法をたどります。

帽子をかぶり、2022年の本人インタビューに応じる樹林伸
2022年の本人インタビューに掲載された樹林伸の写真。中山淳雄取材、gamebiz。 出典

編集者時代の多忙な仕事を、後輩たちも支えていた

樹林さんは2022年の本人インタビューで、講談社の編集者だったころ、最も多い時期に5作品を担当したと振り返っています。
『シュート!』『GTO』『金田一少年の事件簿』『サイコメトラーEIJI』に、一時期は『GetBackers』も加わっていました。

この5作品は、同じ役割で関わった作品ではありません。
本人は『GTO』について、原作を担当するのではなく、普通の担当編集者として仕事をしていたと説明しています。
『サイコメトラーEIJI』は安童夕馬、『GetBackers』は青樹佑夜という名義で原作を書いています。

話を考えることに多くの時間を使い、会社へあまり行かなくなった樹林さんを、後輩たちが支えました。
後輩たちは、経費の精算などの事務処理や、漫画家との制作進行を手伝っていました。
樹林さんの手書きのプロットを読める人が、その文章を書き起こして作画へつなぐこともあったそうです。

樹林さんが話を考え、周囲の人が原稿を次の工程へ運ぶ。
多くの作品へ関わる仕事の裏には、こうした分担がありました。
担当作品の本数だけでは見えない、人の支えです。

1999年に独立した後も、それまで書いていた原作の仕事は続きました。
本人は生活が大きく変わったわけではなかったと話しています。
会社にいるころから、編集と原作執筆を並行していたのです。

書き始める前から、別々の物語を考えている

2019年の本人取材では、執筆の前に頭の中で起承転結を組み立てる方法を話しています。
日常の中で、一つの作品について考えていたと思うと、別の作品へ考えが移る。
樹林さんは、いくつもの作品を入れ替わり考えているそうです。

家族から、話を聞いていないと指摘されることもあると明かしました。
机に向かって原稿を書いている時間以外にも、頭の中では物語を考えています。
本人が書く時間自体は短いと説明するのは、その前から構成を準備しているためです。

マリアージュの台詞とト書きが並んだ樹林伸の脚本
公開された『マリアージュ』の原作脚本。台詞と人物の動きが指定されている。周囲の白い余白のみ除去。©亜樹直/講談社。タップすると原寸で読めます。 出典

樹林さんの漫画原作は、人物の台詞と動きを書く脚本形式です。
文章を書くときには、頭に絵を浮かべ、コマやページの区切りも考えています。
脚本と小説の書き方の違いにも、読者へ場面を伝える工夫があります。

原稿を渡した後も、漫画家のネームを読み、担当編集者を交えて案を出し合います。
考えた話を文章にすることと、漫画として見せることの両方へ関わっているのです。

知ったことを人に話し、また新しいことを知る

これだけ作品を書いて、アイデアが尽きることはないのか。
2022年の取材で、樹林さんはワインの話を例に、知ったことを人に話す習慣を説明しました。

亜樹直原作・オキモトシュウ漫画の神の雫第44巻の表紙
『神の雫』第44巻。姉弟の共同名義・亜樹直が原作、オキモト・シュウが漫画を担当。©亜樹直・オキモト・シュウ/講談社。 出典

知識を得たら、誰かに話す。
話し終えることで自分の知識として定着し、また新しいことを知りたくなる。
樹林さんは、その流れを繰り返していると話しています。

『神の雫』は、姉の樹林ゆう子と使う共同名義「亜樹直」で原作を書き、オキモト・シュウが漫画を描いた作品です。
ワインについて知ったことは、作品を作る材料になるだけでなく、人との会話にもなっています。
樹林さんにとって、話すことも、得た知識を自分のものにする時間なのです。

新人には、一つの作品に集中することも勧める

複数の作品を並行する方法を話した2019年の取材で、樹林さんは新人のうちはある程度集中した方がよいとも助言しています。
樹林さんが新人に大切だと伝えたのは、作品を完成させる力でした。
いろいろな考え方を取り入れることと、目の前の一作を書き終えること。
樹林さんは、自分の働き方を話しながら、新人への勧めを分けています。

まとめ

樹林さんは、知ったことを人に話し、新しい知識を入れる流れが、次のアイデアにつながると説明しています。
原稿を書いていない時間にも物語を考え、人に話して知識を定着させる。
本人にとって、物語を書くことと、その材料を得ることは、日常の中で続いている仕事なのです。

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