和月伸宏はなぜ『るろうに剣心 北海道編』を描いた? 続編を始めた理由

志々雄の無限刃を継ぐ明日郎と剣心が描かれた北海道編第1巻表紙 和月伸宏
『るろうに剣心 北海道編』第1巻/和月伸宏・黒碕薫・集英社

和月伸宏さんが『るろうに剣心』の北海道編を始めたのは、剣心の人生を少年漫画として終える道筋が見えてきたからです。
実写映画を機に再び剣心を描き、昔の作品には明るさもあったと思い出しました。
宝塚版の主題歌から剣心の贖罪の行き先を考える手がかりも得て、和月さんは北海道編を当時描きたい作品として選びました。

1999年には続きの案があった

旧本編を終えたとき、和月さんは新しい作品を一から描きたいと考えていました。
一方で、北海道編などの草案も持っていました。
ただ、剣心を戦わせ続けた先に、少年漫画として望む幸福な結末を見つけられなかったと、2016年のインタビューで振り返っています。
旧本編を終えた当時の事情は、完結理由の記事でも扱っています。

映画化を機に、もう一度「剣心」を描いた

和月さんは別の本人取材で、編集者との意外なやり取りを明かしています。
旧本編を終えたとき、担当の佐々木尚さんから、人気のあるうちに終えたのだから今後は剣心を描いてはいけない、と言われたそうです。
ところが実写映画が動き出すと、同じ佐々木さんが今度は映画に合わせて剣心を描くよう促しました。
和月さんは「描いていいの?」と驚きながらも、作品を見つめ直す機会になると考えて引き受けました。

当初は剣心の最終章を描く案もありましたが、うまく合わず、和月さんは原作を別の形で描く『るろうに剣心―キネマ版―』に取り組みました。

『るろうに剣心―特筆版―』上巻の表紙
『キネマ版』を収録した『るろうに剣心―特筆版―』上巻/和月伸宏・集英社。集英社の書誌。

『キネマ版』を描くうちに、和月さんは初期の『るろうに剣心』にあった愛嬌や笑いを思い出したと話しています。
作者自身の記憶には終盤の重い物語が強く残り、序盤の明るさを忘れていたのです。
再び描いたからこそ、自分の作品の見え方も変わりました。

作者自身も、剣心との向き合い方が変わった

和月さんにとって『るろうに剣心』は、漫画家を続ける自分を守ってくれる作品でした。
同時に、次に描く作品で越えるのが難しい壁でもあったと、2016年の取材で語っています。
実写映画が昔からの読者だけでなく、子どもや年配の人たちにも受け入れられ、宝塚版も楽しまれる様子を見て、和月さんは以前ほどその壁にこだわらなくなりました。

剣心の結末についても、20代の頃の考えだけに縛られなくなります。
40代になった和月さんは、かつて思い描いた剣心の終わり方しかないのか、と考え直したそうです。
映画や舞台に関わるなかで、旧本編の「とりあえず、お疲れ様」を、いつか本当の「お疲れ様」に変える道筋が見えてきました。

宝塚の主題歌が、北海道編のテーマをつかむ手がかりに

和月さんは2023年の黒碕薫さんとの対談で、宝塚版『るろうに剣心』の主題歌を聴いた影響を詳しく話しています。
北海道編のおおまかな姿はあっても、中心に置くテーマはまだ見つかっていませんでした。
旧本編で剣心は、生涯にわたり人を守ると決めます。
しかし和月さんにとって、それは剣心の決意であって、贖罪の完成ではありませんでした。

主題歌に描かれた、歴史に名を残さず生きた人々という視点が、剣心の贖罪をどう締めくくるか考える手がかりになったと話しています。

宝塚歌劇雪組公演『るろうに剣心』の2016年公式ポスター
宝塚歌劇雪組公演『るろうに剣心』の2016年公式ポスター(宝塚歌劇団)。

今、描きたい作品として選んだ

和月さんは2016年のインタビューで、描きたい漫画の案はほかにもある一方、将来いつまで商業漫画家として描けるかは分からないと話しています。
その中で、自分が描きたく、読者も待っている作品として北海道編を選びました。
『エンバーミング』を描き終えたら北海道編に取りかかると、編集部にも伝えていたそうです。

『明日郎 前科アリ』から始めた理由

和月さんは、続きを待つ読者がまず見たいのは剣心たちだと考えました。
新しい人物を突然登場させても、受け入れてもらうのは難しいかもしれません。
そこで北海道編の連載に先立ち、読み切り『明日郎 前科アリ』で若い人物を先に紹介しました。

読み切り『明日郎 前科アリ』の一頁
読み切り『明日郎 前科アリ』の一頁(和月伸宏/集英社)。

成長した剣心たちには、以前と同じような子どもっぽい言動をさせにくい、と和月さんは話しています。
若い明日郎たちなら、愛嬌やこれからの成長を描けます。
昔の仲間が戻るだけではない北海道編にするための準備でした。

まとめ

和月さんにとって『るろうに剣心』は、漫画家として自分を支える作品であり、越えにくい壁でもありました。
映画化を機に再び描くと、忘れていた作品の明るさが見え、年齢を重ねた和月さん自身も剣心の結末を考え直しました。
宝塚の歌から贖罪の行き先を考える手がかりを得たとき、長く持っていた北海道編の構想は、いま描きたい続編へ変わったのです。

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