『幽☆遊☆白書』は、冨樫義博さんが自ら編集部に終了を申し出て幕を閉じました。
本人が連載終了後に説明した事情には、体の不調、原稿を一人で仕上げたいという希望、商業誌で幽助たちを使って描けることへの区切りがありました。
冨樫さんにとって、連載を続けるうえでの悩みは、毎週の仕事をこなせるかということだけではありませんでした。
どこまで自分の手で描きたいのか、幽助たちで何を描きたいのか。
当時の説明と仕事場の回想をたどると、漫画の作り方に関わる悩みも見えてきます。
連載を終えたいと申し出たのは、作者自身だった
終盤の魔界統一トーナメントで、幽助と黄泉の戦いが始まったところから、物語は大きく時間を進めます。
大会の結果は人間界へ戻った幽助が語り、最終19巻には仲間たちのその後が描かれていきます。
勝負を詳しく見届けたいと思って読むと、急な幕引きに感じられる構成です。
その背景を本人が説明したのが、1994年の連載終了後に発表した同人誌『ヨシりんでポン!』でした。
そこでは、自分から編集部に終了を頼んだ経緯が語られています。

徹夜をすると心臓が痛み、過労への不安があったことも、その中で明かしています。
締め切りに合わせて描き続ける生活は、体にとって切実な負担になっていました。
そして、終了の説明は体調の話だけでは終わりません。
スタッフと仕上げながら、一人で描きたいと思っていた
『幽☆遊☆白書』の初回から参加した味野くにおさんは、毎週二泊三日か三泊四日、泊まり込みで作業していたと振り返っています。
スタッフは背景を描き、集中線などの効果を入れ、スクリーントーンを貼って仕上げていました。
週ごとの原稿は、冨樫さんとスタッフの仕事を重ねて完成していたのです。
一方、冨樫さんは『ヨシりんでポン!』で、原稿をすべて一人で仕上げたいと思うようになり、それを十分にできないことがストレスだったと説明しています。
実際には分業が行われていて、本人の中には、最後まで自分の手で描きたいという希望があった。
原稿を完成させる体制があっても、それが本人の望んだ描き方とは限らなかったのです。
味野さんは、自分のネームにも真剣な意見をもらい、うれしく、参考になったとインタビューで語っています。
『先生白書』にも、原稿の作業に追われる中でスタッフへ助言する冨樫さんの姿が描かれています。
幽助たちで描けることにも、区切りを感じていた
冨樫さんは、商業誌で『幽☆遊☆白書』のキャラクターを使ってできることはやり尽くした、という趣旨も述べています。
同人誌では、自分自身が満足できる漫画を描きたいという思いも語っています。
終了を望んだ理由には、描く作業の負担に加えて、作品の中身をどうしたいかという問題もあったのです。
実際、同人誌には、幽助たちを使った別の漫画が収められていました。
次の強敵を登場させるのではなく、彼らが何者なのかを変えてしまう作品です。
『ヨシりんでポン!』の『12人のおびえる者たち』では、幽助や桑原たちが『幽☆遊☆白書』に出演した役者のように描かれます。
彼らが集まるのは、連載終了を記念するパーティーです。
読者になじみのある顔で、役を演じ終えた人々の会話が始まります。
桑原役は眼鏡をかけた落ち着いた人物で、浮かれる幽助役を冷静にたしなめます。
桑原の顔をしていても、その振る舞いは本編の桑原とは違う。
同じ人物をそのまま続編で活躍させるのとは、まったく違う遊び方です。
これは、本編の最終回とは別に同人誌へ描かれた漫画です。
終了の事情を語ったのと同じ本で、幽助たちを違う立場へ置き直す漫画も発表していました。
次の連載では、作品の形も掲載の間隔も変わった
冨樫さんの連載歴をたどると、悪魔の少女との恋愛を描く『てんで性悪キューピッド』があり、その後に『幽☆遊☆白書』があります。
『幽☆遊☆白書』の始まりも、人助けで死んだ幽助が生き返るための試練でした。
冨樫さんは、恋愛、怪異、戦いと、題材や物語の形を変えながら描いてきた作者です。
連載終了の翌年、1995年に始まった『レベルE』は、宇宙人をめぐるSFで、『週刊少年ジャンプ』に月一回の形で掲載されました。
第1巻では、ドグラ星の王子が親衛隊員の忠誠心を試すため、地球人まで巻き込んだ芝居を仕掛けます。
人物の企みが分かったとき、それまでの騒動の見え方が変わる話です。

『幽☆遊☆白書』を終えた後も、違う人物、違う仕掛け、違う掲載の間隔で漫画を発表していく。
作者の仕事は、そのように続きました。
その後の創作観を知る手がかりになるのが、2016年に石田スイさんと行った対談です。
最初に大まかな筋は考えるものの、描いている人物にふさわしい台詞が出れば、予定した筋を捨てることもあるというのです。
冨樫さんにとって、描いている途中で予定が変わることも、話が面白くなる機会なのです。
まとめ
冨樫さんにとって、自分が納得できる描き方や内容を求めることは、連載を続けるうえでの悩みにもなっていました。
体の負担と重なり、『幽☆遊☆白書』を終える理由になったのです。
一方で、終了後の同人誌では、幽助たちを役者に変えてしまいます。
見慣れた人物に別の性格や会話を与え、本編とは違う面白さを作っていました。
自分の描きたい漫画にこだわる姿勢は、連載を続ける難しさにも、読者を驚かせる作品の魅力にもつながっていたのでしょう。



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