『天』天和九蓮で勝った天は、なぜひろゆきに殴られるのか

天和九蓮宝灯を和了する天と、喜ぶ雀荘の常連たち 天 天和通りの快男児
『天 天和通りの快男児』福本伸行、第1巻・第1話。

『天 天和通りの快男児』の最初の勝負は、天和九蓮宝灯という派手な和了で決まる。
停電の直後に完成した役満を、井川ひろゆきは認めない。
天は勝者になっても、負けたひろゆきから殴られることを拒まない。

ここで天が取り戻そうとしていたのは、雀荘の仲間たちが負けた金だった。
その仲間たちには嬉しい逆転でも、ひろゆきには腕で築いたリードをひっくり返された敗北になる。
この勝負の後味を作っているのは、同じ天和を前にした両者の食い違いと、相手の怒りを自分の体で受ける天の姿勢だ。

仲間が欲しかったのは、ひろゆきから金を取り戻すこと

雀荘の常連たちは、強すぎる若者に金を奪われ、天を呼ぶ。
天はひろゆきにサシ馬を提案する。
卓では四人が打ちながら、天とひろゆきの成績を比べて別に金を賭け、常連たちは天の側につく。
ひろゆきにとっては、負ければ、それまでに稼いだ金を吐き出す勝負になる。

対局では、ひろゆきが天の打ち方を読み、オーラスまで大きくリードする。
ひろゆきは、天が仕掛けそうな牌のすり替えにも目を光らせていた。

最後の局で店内が暗くなると、ひろゆきは前にある山が動いたことに気づく。
明かりが戻り、天が倒した牌は、天和九蓮宝灯になっていた。

停電中に牌の山が動いたことに気づくひろゆき
『天 天和通りの快男児』福本伸行、第1巻・第1話。

天は九万六千点の和了を告げ、常連たちは歓声を上げる。
自分たちが負けた金を取り戻せるという点では、天は期待に応えた。
だから周囲は喜び、負けたひろゆきだけが、その勝ち方を認めない。
天和が出たから全員が納得した、という決着ではないのである。

天和九蓮宝灯を和了する天と、喜ぶ雀荘の常連たち
『天 天和通りの快男児』福本伸行、第1巻・第1話。

ひろゆきが求めた、腕と裏技の勝負

ひろゆきは、天をただの素人だと思って勝負を受けたわけではない。
天が自動卓から手積みの卓へ移ろうとすると、ひろゆきは相手をイカサマ師だと疑う。
そのうえで、裏の技も含めて、こういう打ち手と戦ってみたかったと考えている。

ひろゆきが期待していたのは、麻雀の腕と裏技をぶつけ合う勝負だった。
ところが、最後に使われたのは、部屋を暗くしてしまう手だった。
天の手元を警戒し、麻雀の腕でリードしてきたひろゆきにとって、その決め方は受け入れがたい。

対局後、ひろゆきは、裏技にも見るべきものがあると話す。
早抜きのような技ならともかく、天の仕掛けは子供だましだ、と腹を立てる。
ひろゆきは、不正かどうかだけでなく、打ち手として感心できる技かどうかも見ていた。
そのひろゆきに対して、天は、勝負は勝てばいいという態度を崩さない。

天の勝ち方を認めないひろゆきと、九万六千点を告げる天
『天 天和通りの快男児』福本伸行、第1巻・第1話。

天は仲間の金を取り戻す結果を求め、ひろゆきは自分の腕をぶつける勝負を求めていた。
ひろゆきの怒りは、この違いからも理解できる。
点数で負けたからといって、ひろゆきが天を優れた打ち手として認めたことにはならない。

ひろゆきの怒りを、自分の体で受ける天

天は、怒るひろゆきに、殴っていいと伝える。
天和で和了したときには、相手に無条件で殴らせることにしているという。

ひろゆきは、それならイカサマを認めるのかと問い返す。
天は、あの天和は偶然だったととぼける。
不正を正直に告白して謝る場面ではなく、このやり取りにも天のふざけた調子は残っている。

天和で勝った相手には殴らせると話す天
『天 天和通りの快男児』福本伸行、第1巻・第1話。

それでも、殴らせるという申し出は口先で終わらない。
天は、殴れば相手も少しは気が晴れると話し、ひろゆきに打たれる。
仲間の側に立って金を奪い返す一方で、金を失った相手の腹立ちも、自分へ向けさせている。
天の勝ち方を人情のあるものとして読めるのは、この部分だ。

出かける前、天は家の人たちに、また殴られると心配されていた。
天は大げさだと言いながらも、最後には、みんなの力になれるのが嬉しいと答えている。
殴られることを心配されても、天は仲間のために雀荘へ出かけていく。
天は、自分を頼ってきた仲間を助けた後、負けたひろゆきから殴られることも引き受ける。

勝ち方を非難するひろゆきに、打たれる天
『天 天和通りの快男児』福本伸行、第1巻・第1話。

最初の天和九蓮は、天の麻雀の強さを見せつける勝利ではない。
天は仲間には金を取り戻す男として頼りにされ、対戦相手には呆れられながら、その怒りまで自分に向けさせる。
勝って笑っているのに、殴られる役も引き受けている。
このちぐはぐな姿に、最初の天の人のよさが表れている。

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