高田裕三の『万能文化猫娘』と『3×3EYES』。笑いと冒険の描き分け

高田裕三『万能文化猫娘COMPLETE』の書影。ピンクの髪のヌクヌク。 漫画家・作者
『万能文化猫娘COMPLETE』・高田裕三/双葉社。2010年刊。

高田裕三さんの代表作『3×3EYES』は、人間になることを願うパイと、不死人になった八雲の冒険を描く漫画です。
その連載中に、高田さんは『万能文化猫娘』も描きました。
猫の頭脳を持つ少女・ヌクヌクと、彼女を迎えた家族の日常を描く作品です。

二作の違いは、妖怪とアンドロイドという設定だけではありません。
『万能文化猫娘』では少女の猫らしさが笑いになり、『3×3EYES』では少女との出会いから、少年の人生が変わる冒険が始まります。
それぞれの第1話を読むと、同じ作者の絵が、どんな場面で笑いを作り、どんな場面で危機を伝えるのかが見えてきます。

2015年の対談で3×3EYESの書影を見る高田裕三
2015年の対談で書影を見る高田裕三。撮影:三木美波。 出典

『万能文化猫娘』は、万能な女子大生が猫の寝姿を見せる

『万能文化猫娘』の最初の漫画は、1990年に掲載が始まりました。
後年の『万能文化猫娘COMPLETE』には、この旧作と、設定の異なる『新・万能文化猫娘』が収録されています。
ここでは旧作の第1話を見ていきます。

ヌクヌクは、大学では夏目温子という名前の女子大生です。
勉強もスポーツも得意で、学生たちからクリスマスの誘いを受けるほどの人気者として登場します。
ところが、家へ帰ると、こたつで猫のように丸まって眠っています。
大学での万能ぶりから、その寝姿へと移る落差が、この少女の愛嬌になっています。

高田裕三『万能文化猫娘COMPLETE』の書影。ピンクの髪のヌクヌク。
『万能文化猫娘COMPLETE』・高田裕三/双葉社。旧作と『新・万能文化猫娘』を収録した2010年刊の書籍。 出典

ヌクヌクを作ったのは、小学生・龍之介の父親です。
父親は、ヌクヌクの研究を発表して、自分を追い出した学会を見返そうとしています。
龍之介はそんな父親に、復讐や学会のことばかり考えず、平凡に暮らそうと応じます。

研究の野望を語る父親に、龍之介が冷静に言い返すやり取りも、ヌクヌクのいる家庭の笑いを作っています。
同じ第1話には、ヌクヌクの誕生日を祝う、父親と龍之介の姿があります。
驚くような発明を、家族がどう迎えて暮らすかが、最初の話の中心になっているのです。

『3×3EYES』にも、八雲の大げさな反応がある

『3×3EYES』は、最初から緊張した場面だけが続く漫画ではありません。
第1話でパイが八雲を探し当てるまでにも、八雲が驚いたり、困ったりするやり取りがあります。

父からの手紙で、八雲はパイを人間にする手助けを託されます。

その依頼には怒る一方、パイを前にすると照れる。

父の事情に巻き込まれる少年の大きな反応には、軽い笑いもあります。

高田裕三の3×3EYES第1巻の表紙
『3×3EYES』第1巻・高田裕三/講談社。 出典

怪鳥の襲撃で、八雲も人間を目指すことになる

『3×3EYES』の第1話では、会話の途中で、新宿に怪鳥が現れます。
パイが杖の中に連れていた怪鳥が暴れ、八雲は致命傷を負います。
パイの額に第三の目が開き、八雲の魂を取り込んだことで、八雲は命をつなぎます。

八雲の傷と、叫ぶパイの顔が大きく入り、出会いは一転して命の危機になります。

直前の会話を楽しんでいた読者にも、もう笑って済まない出来事だと伝わる場面です。

八雲自身も人間に戻る必要が生まれ、パイだけの願いだった人化が、二人の目的になります。

第1話の終わりは、香港へ行こうという旅への誘いです。

『万能文化猫娘』の第1話は、ヌクヌクのいる家のクリスマスに落ち着きます。
『3×3EYES』の第1話は、東京から香港へ向かう約束で終わります。
人間とは違う少女との暮らしを楽しむ話と、その少女と一緒に人間を目指して旅立つ話。
二作の入口には、そんな違いがあります。

まとめ

どちらにも、人間とは違う少女を迎えた人々の、大きな表情と軽い会話があります。

その先を家族の暮らしへ落ち着かせるか、命の危機を経て冒険へ送り出すか。

二作を並べると、高田さんの笑いが、日常を楽しむ中心にも、これから始まる長い旅の入口にもなっていることが分かります。

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