冨樫義博が描いた「かむてん」とは?新庄市の天狗には、描かれなかった家族がいる

龍を載せた祭りの山車とゴン、キルア、クラピカたちを描いた表紙イラスト 冨樫義博
画:冨樫義博。新庄市『広報しんじょう』2016年8月号の表紙イラスト。新庄市公開PDFから原寸・無加工で引用。

山形県新庄市のキャラクター「かむてん」をデザインしたのは、『幽☆遊☆白書』『HUNTER×HUNTER』の冨樫義博さんです。
新庄市出身の冨樫さんが、地元に伝わる神室の天狗をもとに、1994年に描きました。

長い鼻をした、おじいさんの天狗。
その姿だけでも親しみがありますが、冨樫さんは、絵には出てこない家族のことまで考えていました。
かむてんの誕生と、故郷を描いたもう一つの仕事をたどると、この天狗に託した遊び心が見えてきます。

名前には「神室の天狗」と「店に来て」の二つの意味

雪に覆われた田畑の向こうに連なる神室連峰
神室連峰南麓。撮影:Tomofumi Sato(2010年4月4日)。Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0、無加工。

新庄の北東にある神室山には、古くから天狗の伝説があります。
新庄市の紹介によると、その天狗を市のキャラクターとして描いたのが冨樫さんでした。

かむてんという名前は、デザインの翌年、1995年の市民公募で決まっています。
「神室に住む天狗」を縮めた呼び名であると同時に、店に来るという「Come店」の意味もあります。
山の伝承と、商店街に人を迎えたいという願いが、一つの名前に重なっているのです。

かむてんは、その後、市営バスの名前やナンバープレートにも使われ、2013年には市の広報部長に就任しました。
昔話の天狗が、街を走るバスや市の広報にも登場するようになったわけです。

三世代・7人家族を考えながら、あえて描かなかった

冨樫さんは、デザイン当時のコメントで、かむてんをいたずら好きのおじいさんとして考えたと説明しています。
頭の中には、三世代・7人の家族構成もありました。

ところが、家族全員を絵に描いて見せることはしませんでした。
街になじんでいる雰囲気を描き、家族のことは見る人に想像してもらおうとしたのです。
このコメントは、『広報しんじょう』2019年7月号にも掲載されています。

市が公開しているイラストでは、かむてんが人々と一緒にバスを待っています。
子どもを背負った天狗が、町の人と同じ列に並んでいる。
不思議な生き物なのに、近所で会いそうなおじいさんにも見える場面です。

母さん天狗はどんな人なのか。
おじいさんに似て、孫たちもいたずら好きなのか。
冨樫さん自身も、そんな家族の姿を問いかけています。
かむてんの姿から、その周りにも暮らしがありそうだと想像を広げられるのが楽しいところです。

ゴンたちと山車を描いた、故郷の広報誌

冨樫さんと新庄市の仕事は、かむてんだけではありません。
2016年には、新庄まつりを題材に『広報しんじょう』8月号の表紙を描いています。

大きな龍を載せた山車を囲むのは、ゴン、キルア、クラピカら『HUNTER×HUNTER』の人物たち。
漫画の仲間が、同じ祭りを見に来たような一枚です。
地元ゆかりの漫画家らに表紙を描いてもらう企画の一つとして実現しました。

同号に寄せた言葉で、冨樫さんは、子どもの頃、チラシの裏に自分で考えた山車を描いて楽しんでいたと振り返っています。
宵祭りの明かりと、お囃子が近づいてくるときの高揚感も語っていました。

この表紙の面白さは、よく知る漫画の人物と、作者が子どもの頃から親しんだ祭りを一緒に見られることです。
山車を想像して描いていた子どもが、漫画家になって、自分の作品の人物たちと祭りを描く。
本人の思い出を知ると、にぎやかな表紙が、故郷とのつながりを感じられる一枚にもなります。

まとめ

かむてんは、冨樫義博さんの名前を知る人に、新庄の天狗伝説や街の暮らしを知ってもらう入口でもあります。
家族を想像できるおじいさん天狗と、ゴンたちが集まる祭りの表紙。
好きな漫画家の絵をきっかけに、その人が育った土地にも興味が向くところに、こうした地元の仕事をたどる楽しさがあります。

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