劍客兵器の於野冨鷹は、相楽左之助を仲間に誘う。
左之助は赤報隊にいた。
明治政府が赤報隊を「偽官軍」として切り捨てた過去を知る於野は、政府をよく思わない左之助なら手を組めると考えた。
於野の見立てには当たっている部分がある。
しかし、左之助が許せないのは、政府という名前よりも、自分たちの暴力を正義として通そうとするやり方だった。
於野の勧誘は、そこを取り違えている。
赤報隊の記憶から、於野が見落としたもの
幼い左之助は、相楽総三が率いる赤報隊に憧れていた。
だが政府は赤報隊を偽官軍として処分し、相楽も命を奪われた。
左之助にとって赤報隊の出来事は、政府に仲間を奪われた記憶である。
於野はその過去を持ち出し、左之助にも政府と対立する理由があると考える。
ところが左之助は、嫌いなのは維新志士や明治政府そのものではないと返す。
左之助が批判するのは、自分を正義の側に置くために、悪い行いを隠したり意味をねじ曲げたりするやり口だ。
左之助は赤報隊の扱いを忘れていないが、政府に敵対する者なら誰でも味方にするわけではない。

劍客兵器もまた「正義」のために暴力を使う
劍客兵器は、外国の脅威から国を守るため、強い戦士を育てようとしている。
そのために小樽で武器を広め、人々を争いへ巻き込む「実検戦闘」を進めてきた。
於野は国を守るという目的を語るが、その目的を掲げれば、今ここにいる人々を危険にさらしてよいわけではない。
左之助は、劍客兵器の行動にも、赤報隊を切り捨てた政府と同じやり口を見る。
敵対する相手が違っても、都合の悪い暴力を別の言葉で包む点は変わらない。
だから左之助は於野の誘いを断る。
政府への反発が、そのまま劍客兵器への賛成にはならないのだ。
於野の危機感まで否定したわけではない
於野は箱館戦争で西洋の兵器の脅威を知り、日本が外国に踏みにじられることを恐れている。
左之助も世界を旅し、貧困や植民地で苦しむ人々を見てきた。
於野が言う世界の厳しさを、左之助は知らないわけではない。
左之助は於野に、戦争ではなく楽しい喧嘩がしたいと話す。
左之助は、世界を巡った五年間、喧嘩を楽しめなかったとも話す。
戦争や貧困がある場所では、喧嘩を遊びのようには受け取れなかったのだ。
世界が残酷なら国を守るために国内でも残酷な方法を使ってよい、という於野の考えにも左之助は乗らない。

差し出した手が示す、断った理由
戦いの末、左之助は於野に、やり方を変えるなら話し合う余地を作ると告げる。
そして握手を求めて手を差し出した。
ここで左之助が求めたのは、於野に国を守る思いを捨てさせることではない。
人々を争わせる方法をやめることだった。


左之助は赤報隊の悲劇を理由に劍客兵器へ加わることも、於野の危機感を笑い飛ばすこともしなかった。
左之助が相手を見る基準は、どの組織に属するかではなく、何を守ると言い、そのために誰を傷つけるかにある。
だから劍客兵器の誘いは断り、やり方を変えられる於野には手を差し出せたのだ。


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