志々雄一派の元部下が人質を取る。
弥彦は犯人を止めた。
ところが、弥彦が逆刃刀を抜いた相手は、その犯人ではなく警官だった。
政府を倒そうとした志々雄一派との戦いが終わっても、「政府側なら正しい」とは言い切れない。
剣心が京都で勝ち取ったものと、勝った政府がその後にすることは、別々に見なければならない。
志々雄を倒した政府は、方治に何をしたか
剣心たちは志々雄を止めた。
志々雄の国盗りを放置すれば、人々は新たな争いに巻き込まれる。
剣心が守ろうとしたのは、政府の権威だけではなく、争いに巻き込まれる人々だった。

勝負が終わった後、志々雄の側にいた佐渡島方治は警察へ出頭する。
方治は刑を覚悟して、公開の場で志々雄の考えを主張するつもりだった。
明治政府は方治にその機会を与えず、代わりに能力を政府のために使えば身の安全を保障するという裏取引を持ちかける。
方治は取引を拒み、獄中で命を絶った。
方治は反乱を支えた人物で、政府が方治を拘束すること自体を不当と決めつける話ではない。
問題は、政府が志々雄一派の存在を公にせず、敗れた方治の言葉を封じたうえで、その能力だけを取り込もうとしたことだ。
公の場で罪を問うより、政府に都合のよい処理を優先する。
志々雄を倒した側も、手にした力をどう使うかは改めて問われる。
剣心は、自分たちの勝利にも同じ言葉を向ける
宗次郎は剣心に敗れたとき、剣心の考えのほうが正しかったのだと受け止める。
剣心は、勝ったほうが正しいと決めるなら、それこそ志々雄の「弱肉強食」と変わらないと返した。
このやり取りでは、剣心は敗れた宗次郎に答えている。

だが京都編の結末では、今度は剣心と同じ側で戦った弥彦が「正しかったのは俺たちの方だよな」と尋ねる。
剣心はここでも、勝者をそのまま正しい側には置かない。
宗次郎への言葉は、負けた者だけに向けた説教ではなかった。
剣心自身と明治政府にも向けられる、勝利の後に残る問いだったのである。

京都編の末尾では、数年後に明治政府が富国強兵を進めるなかで、志々雄の掲げた「弱肉強食」が別の形で実践されていくと語られる。
志々雄一派の国盗りを阻んでも、力で弱い者を押さえつける考えまで消えたわけではなかった。
剣心たちが倒した敵の論理が、勝った政府の側に現れる。
逆刃刀は、政府側に立つために渡されたのではない
旧本編の最後、剣心は弥彦との一本勝負に勝ち、逆刃刀を弥彦に譲る。
弥彦が負けたことを気にすると、剣心は初めから勝ち負けを見ていなかったと話す。
逆刃刀は、勝敗で手に入れる褒美ではなかった。

特別編『弥彦の逆刃刀』では、志々雄一派の元部下・武藤要が人質を取る。
弥彦は武藤の刀を折り、戦意を失わせた。
武藤が志々雄一派の元部下である以上、ここでは弥彦が京都と同じように反政府側の暴力を止めている。
だが北鬼警部補は、抵抗をやめた武藤を殺そうとする。
弥彦は逆刃刀を抜き、北鬼を止める。
弥彦が武藤を助けたからといって、武藤が人質を取った行為は消えない。
武藤を捕まえることと、戦意を失った武藤をその場で殺すことは別だ。
この場面で逆刃刀が向かったのは、かつての敵ではなく、武藤の命を奪おうとした警官だった。

北鬼の行動は一人の警官の判断であり、政府全体の命令だとは分からない。
しかし、警官という立場だけでは、目の前の殺害は正当化されない。
弥彦は武藤の人質事件を許したわけではなく、武藤を捕らえた後に起きた別の殺害を止めている。
剣心の勝利が決められなかったこと
剣心は志々雄の国盗りを止められた。
だが、明治政府がその後どんな国になるかは、一度の勝負で決まらない。
だから剣心は、勝った側に正しさを預けず、目の前の人を守る道を選んだ。
特別編で弥彦は、志々雄一派の元部下を止めた後、同じ人を殺そうとする警官も止めた。
弥彦にとって大切なのは、相手が政府側か反政府側かではなく、今、その力が誰の命に向かっているかだ。
剣心から受け取った逆刃刀を、弥彦は政府側の警官に向けて抜く。
その一振りによって、京都編で剣心が拒んだ「勝者こそ正しい」という考えが、次の世代の選択にも生きていると分かる。

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