『るろうに剣心』由太郎はなぜ雷十太に裏切られても「剣術はやめない」と言えたのか

集英社刊『るろうに剣心』カラー版第6巻の表紙 るろうに剣心
『るろうに剣心』カラー版6巻/和月伸宏・集英社

石動雷十太に右腕を傷つけられた塚山由太郎は、治療のためドイツへ向かう。
憧れていた相手に裏切られ、右手で剣を握れなくなった由太郎は、見送りに来た仲間たちの前でもうつむいたままだった。
そこへ弥彦が竹刀を投げつけると、由太郎は「俺は絶対に剣術はやめねェ」と言い返す。
由太郎がその場で剣を握り直せたのは、雷十太への憧れと、自分が剣術を続けたい気持ちを分けられたからだ。

雷十太は憧れの人だったが、剣を教えた師ではない

由太郎は、刀剣を売り、人に頭を下げる父・由左衛門に反発していた。
そんな由太郎の前に強い剣客として現れたのが雷十太だった。
由太郎は雷十太を「先生」と呼び、一番弟子を名乗る。
しかし雷十太から稽古をつけてもらったことはなく、由太郎は竹刀の持ち方も知らなかった。

由太郎が師と仰いだ石動雷十太の原作場面
『るろうに剣心』東京編/和月伸宏・集英社

由太郎が最初に追いかけたのは、剣術を教わった経験というより、雷十太の強さと、自分もあのようになりたいという願いだった。
雷十太に裏切られれば、由太郎は憧れの人を失う。
しかし、由太郎には雷十太と別の場所で剣を振った経験ができていた。

神谷道場で、剣術は由太郎自身の楽しみになった

弥彦に負けたくない一心で神谷道場に来た由太郎は、薫から実際に剣術を習う。
稽古を重ねるうちに由太郎は腕を上げ、弥彦と張り合うことも楽しむようになった。

薫に入門を誘われても、由太郎は雷十太への思いからすぐには応じない。
雷十太を慕う気持ちは、この時点ではまだ強い。
それでも、稽古の面白さを知り、競い合う相手もできたことは、雷十太に裏切られた後の由太郎に残る。
剣術への思いは、もう雷十太から与えられた憧れだけではなかった。

弥彦が取り戻したのは、由太郎の「負けたくない」という声

由太郎は右腕の神経を傷つけられ、右手で剣を握れなくなる。
その傷を負わせたのが、頼りにしていた雷十太自身だった。
弥彦は雷十太をかばわない。
弥彦は、実際の雷十太と、由太郎が信じていた強い剣士の姿を分け、その理想を超えるほど強くなればいいと由太郎にぶつける。

ここで弥彦が差し出したのは、新しい師匠ではなく、もう一度競い合う相手としての自分だった。
弥彦に「負け犬」と呼ばれた由太郎は、左手で竹刀を振って応じる。

別れ際に竹刀を交える由太郎と弥彦の原作場面
『るろうに剣心』東京編/和月伸宏・集英社

左手で竹刀を振っても、右腕の傷は残っている。
それでも由太郎は、雷十太を信じるかどうかとは別に、剣術をやめたくないと自分で言えた。

左手で竹刀を振り「剣術はやめない」と言い返す由太郎の原作場面
『るろうに剣心』東京編/和月伸宏・集英社

後の『北海道編』で、成長した由太郎は剣の道を諦めたと話す。
旅立つ日の決意が、生涯続いたわけではない。
それでもあの日、由太郎は雷十太への失望だけで、薫から学んだ剣術や弥彦と競い合った時間まで捨てなかった。
旅立つ前に由太郎が左手で竹刀を振り、「やめない」と宣言した相手は弥彦だった。
由太郎が剣を振りたい理由は、雷十太一人への憧れではなくなっていた。

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