幕末に苦しむ人々を助けたいと願った剣心は、比古清十郎のもとを離れて維新志士に加わった。
比古はその選択に反対する。
だが比古自身も、目の前の人を救うためには刀を抜く。
人助けを望む二人の間で、何が食い違っていたのか。
剣心が救いたかったのは、動乱に苦しむ人々
若い剣心は、争いで苦しむ人々を放っておけなかった。
その思いから、飛天御剣流の力を維新志士の戦いに使おうとする。
比古も人を守るという目的を否定してはいない。
飛天御剣流の本来の理は、時代の苦難から人々を守ることだと比古自身が語っている。
比古が止めたかったのは、強大な剣が政治の一派の手に入ることだった。
飛天御剣流の剣が強すぎるため、どちらか一方に肩入れすれば争いの行方を大きく変えてしまう。
どちらかの勢力に属せば、その剣は人々を守る手段であると同時に、所属する側を勝たせる武器になる。
だから比古は、流派を権力や派閥に属さない「自由の剣」として使うべきだと言う。

組織に仕えることが、剣をどう変えるのか
剣心には、倒幕に加わることで動乱を終わらせたい理由があった。
比古には、その方法では流派の剣が一派の勝利のために使われ、別の苦難や歪みを生むという懸念があった。
苦しむ人を見捨てたいのではない。
剣を振るう理由と相手を、組織の目的に預けてよいのかが争点だった。
実際、剣心は長州側の人斬りとして働き、多くの人を殺した。
比古は再会した剣心の顔と心に残った傷を挙げ、飛天御剣流の理を理解せず一派に加わった結果だと叱る。
人を守りたいという出発点があっても、剣心の力は暗殺に使われた。
比古が警戒したのは、その変わり方だった。
再会した剣心に、比古は最初から奥義を教えようとはしない。
しかし、剣心が流浪人として各地で人助けをしてきたと薫たちから聞き、考えを変える。
剣心自身にも、なぜ人を助けるのかを確かめる。
剣心は飛天御剣流の理と、人斬りとして奪った命への償いの両方を挙げた。
比古はその答えを聞いて、奥義の伝授を決める。
流浪人となった剣心は、一つの政治勢力のためではなく、助けを必要とする人のために剣を使っていた。
比古は、剣心が人助けを続けてきたことと、その理由を聞いたうえで伝授を決めた。
比古自身も「助けない人」ではない
比古は後に、志々雄一派に襲われた葵屋を守るために駆けつける。
志々雄を倒せば明治政府にも利があるが、比古は政府の兵として命令を受けて来たわけではない。
剣心の頼みに応じ、葵屋にいる人たちを助けに来た。

比古の言う「自由」は、争いを見ているだけでよいという意味ではない。
誰かを救うために剣を抜くとしても、その力を権力の持ち物にしないということだ。
若い剣心には、助けたい人々が見えていた。
比古はその剣が強すぎるからこそ、どの勢力に勝たせるかを決める道具になってしまうことまで見ていた。
二人の違いは、人を守るかどうかではなく、剣を振るう相手と目的を誰が決めるかにあった。


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