『チ。―地球の運動について―』や『ひゃくえむ。』を描いた魚豊さんは、影響を受けた漫画の一つに、岩明均の『寄生獣』を挙げています。
魚豊さんが惹かれていたのは、作者の個性を強く感じる表現と、多くの読者を楽しませる力が、同じ作品にあることでした。
『七夕の国』では、謎解きの面白さと、人間について考えさせる問いの結び付きにも魅力を感じていました。
好きだった漫画は、魚豊さんにとって読む楽しみであるだけでなく、自分も漫画を描いていくための希望になっていました。
本人の読書体験と創作についての言葉から、岩明作品から受け取ったものを紹介します。
高校時代に『寄生獣』、19歳頃に『七夕の国』を読んだ

魚豊さんが『寄生獣』を読んだのは、高校時代でした。
人間とはどういう存在なのかを問い直す作品として、強く評価しています。
2024年のインタビューでは、『七夕の国』を読んだのは19歳頃だったと振り返っています。
新人漫画賞に入選した魚豊さんは、賞金で読みたかった漫画をまとめて買いました。
その中に『七夕の国』も入っていたのです。

『寄生獣』とは違う、土地の風習や歴史に関わる不思議な世界に引き込まれた魚豊さんは、岩明さんがこんな物語をどこから思いつくのかと驚きました。
魚豊さんは、岩明さんの想像力に憧れたと振り返っています。
自分の好きな表現を、多くの読者も楽しんでいた
魚豊さんは、2021年の『川島・山内のマンガ沼』のアンケートで、影響を受けた漫画として『寄生獣』を挙げています。
ほかに名前を出したのは、『ピンポン』『闇金ウシジマくん』『カイジ』『亜人』『デスノート』でした。
魚豊さんは、これらの作品と作者を尊敬する理由を、作家性と大衆性の両立だと答えました。
作者ならではの表現がありながら、多くの人が夢中になれる漫画として読めることを、評価していたのです。
その意味は、2022年の新人作家へのアドバイスで、もっと具体的に語られています。
魚豊さんが好きだった『寄生獣』や『カイジ』などは、表現に強い個性がある作品であり、大きく売れた漫画でもありました。
好きな漫画が大きく売れていたことは、魚豊さんにとって、デビュー前の希望でした。
自分の好きなものにも、大勢の読者に届く可能性があると感じられたからです。
魚豊さんは、描きたいことと世間に受けそうなことに隔たりを感じたときも、自分の本質を曲げず、編集者と相談して読みやすくしていけばよいと話しています。
自分が好きな作品は、そのための指標になるとも述べました。
謎解きを楽しむうちに、人間について考えてしまう
魚豊さんは『七夕の国』について、怪事件の謎を追う面白さと、土地や人間の記憶について考えることが、深く結び付いていると語っています。
魚豊さんの評価では、哲学的な話題が物語に付け足されているのではなく、物語を楽しむことと考えることが一緒に進みます。
魚豊さんは、岩明作品のその結び付きに惹かれていました。

同じインタビューの後半では、幸子がナン丸に「窓の外」について話す場面も、好きな原作の場面として挙げています。
幸子は、自分が経験していることを説明しようとしますが、言葉ではうまく伝えられません。
魚豊さんは、この場面に、他人には伝わらない孤独や死についての描写を見ていました。
憧れた岩明均が、『チ。』を推薦した

2020年に『チ。―地球の運動について―』第1集が発売された際には、岩明さんが推薦コメントを寄せています。
小学館が掲載するコメントで、岩明さんは魚豊さんの作品に「まぎれもない才能を感じる」と述べました。
作者を、読者を導く思慮深い案内人として評価し、歴史を題材にした物語が、読者をどこへ連れていくのかに期待を寄せています。
岩明作品を読んで創作への希望を持っていた魚豊さんが、今度は自分の漫画を岩明さんに評価される側になりました。
読者だった漫画家が作品を発表し、憧れの作者もその漫画の読者になる。
二人の言葉からは、作品を通してつながる漫画家同士の関係が見えてきます。
まとめ
魚豊さんが語ったのは、岩明作品の発想への憧れと、『寄生獣』などの人気が自分の創作にも希望を与えたという経験でした。
魚豊さんは、憧れた作品に自分の創作の指標を見つけ、後には岩明さんから才能を評価される作品を発表しました。
その魚豊さんの作品を、後に岩明さんが推薦したことまで知ると、好きな漫画が次の漫画家へつながっていく様子を、二人の経歴の中に見ることができます。

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