『H2』は、『タッチ』終了から六年後の1992年に始まった野球漫画です。
あだち充さんは、当時サッカー漫画を望む声もあったと振り返っています。
それでも本人が選んだのは、自分の話の作り方に合う野球でした。
比呂がサッカー部から野球へ戻る序盤にも、当時のサッカー熱への反発が込められていたといいます。
『タッチ』の後には、別の物語を挟んでいた
『タッチ』の連載が終わったのは1986年です。
その後、あだちさんは、水泳を描く『ラフ』や、時代活劇の『虹色とうがらし』などを手がけました。
『H2』の連載開始は1992年。
あだちさんは、別の舞台の青春や冒険を描いた後、再び高校野球の長編へ取り組んだのです。

主人公の国見比呂は、最初から野球部で甲子園を目指しているわけではありません。
肘の故障を告げられ、野球部のない千川高校へ進み、サッカー部に入っています。
ところが、千川には野球愛好会があり、やがて故障の診断も誤りだったと分かります。
サッカー漫画を望む声もあった
『H2』が始まった翌年の1993年5月15日には、Jリーグが開幕しました。
あだちさんは、このころのサッカー人気を振り返り、サッカー漫画にしたいという要望もあったと、インタビューで話しています。
しかし本人にとって、プレーの間が少ないサッカーは、自分の作風になじむ競技ではありませんでした。

比呂が最初にサッカー部へ入る設定についても、あだちさんは、周囲のサッカー熱への当てつけだったと語っています。
野球を描く漫画の入り口に、あえてサッカー部を置いていたのです。
比呂の台詞が語る、野球ならではの面白さ
序盤では、サッカー部と野球愛好会が、野球で対戦します。
比呂は試合の途中でサッカー部をやめ、愛好会に加わります。
そして、こう口にするのです。
「タイムアウトのない試合のおもしろさを教えてあげますよ。」

あだちさん自身も、試合の結果を最初から決めるのではなく、その場の三振や次の打席の面白さを考えて描く、と話しています。
最後のアウトまで逆転できる野球は、物語を進めるうえで助かる競技だったそうです。
比呂が語る野球の魅力は、作者にとっての、試合を描く面白さにも通じています。
まとめ
『H2』のサッカー部と野球愛好会の対戦には、当時のスポーツの流行と、作者が選んだ競技が重なります。
周囲がサッカーへ目を向ける時代に、あだちさんは、最後のアウトまで先が決まらない野球を描いた。
その背景を知ると、比呂の台詞が、野球漫画を再び始めた作者からの誘いのようにも聞こえます。


コメント