『るろうに剣心』の逆刃刀は、和月伸宏さんが思いつきだけで描いた変わった刀ではありません。
侍を主人公にしたい、けれど人を殺す主人公にはしたくない。
その二つを両立させようと考えた末に生まれた武器です。
和月さんは、竹刀や木刀も候補に挙げたものの、どれもしっくりこず、「最初から峰打ちになる刀」という答えにたどり着いたと語っています。
先にあったのは「刀」ではなく「殺さない剣客」
和月さんは集英社の対談で、逆刃刀がひらめきから生まれたのかと尋ねられ、論理を積み重ねて作ったと答えています。
最初の条件は「侍を描きたいが、人殺しにはしたくない」というものでした。
この発想に至る前には、歴史物の読切『戦国の三日月』への手応えと、担当編集者からもう一本歴史物を描いてはどうかという提案がありました。
舞台を幕末から明治に定める過程で、和月さんが描きたい主人公として「殺さない剣客」が形になっていきます。
時代を選んだ詳しい経緯は、明治を舞台にした理由の記事で紹介しています。

剣心には刀を持たせたい。
しかし、普通の刀をそのまま持たせるだけでは、「殺さない剣客」という主人公の核は武器の形から伝わりません。
逆刃刀は、この制作上の問題に対する答えでした。
竹刀、木刀、竹光は、どれもしっくりこなかった
和月さんが対談で並べた候補は、竹刀、木刀、竹光です。
いずれも、普通の真剣を持たせずに剣を振るわせる道具として考えられます。
ただ、本人はどれも「しっくりこなかった」と説明しています。
それぞれを退けた細かな理由までは語っていません。
そこで刀そのものを手放すのではなく、刀の刃と峰の位置を入れ替える発想が出てきました。
和月さんの言う「最初から峰打ちになる刀」です。
ここで大切なのは、逆刃刀を持てば相手が傷つかない、という話ではないことです。
重い金属の刀で打てば危険はあります。
和月さんが解こうとしたのは、安全な武器の発明ではなく、刀を携えながら人を斬らない剣客を、読者に一目で伝わる形にすることでした。
後年、実物の刀としても再現された
逆刃刀は、作品の中だけにとどまりませんでした。
2021年の「るろうに剣心展」では、博物館明治村の依頼で刀匠・尾川兼國さんが製作した実物の「逆刃刀・真打」が紹介されています。
京都市京セラ美術館の展示説明によると、普通の日本刀では反りの外側にある刃が、この刀では内側につけられました。

この実物は漫画の誕生から後に作られたものです。
和月さんが実物を見て逆刃刀を考案したわけではありません。
それでも、刃の位置を変えるという漫画の着想が、日本刀の形の違いとしても確かめられる展示でした。
まとめ
逆刃刀が先にあり、そこへ「人を斬らない」という設定を付けたわけではありません。
和月さんは「殺さない剣客」を描くと決め、その主人公に何を持たせるかを考えました。
刀らしさを残すことと、刀で人を斬らないこと。
逆刃刀という目に見える形は、この二つを同時に描こうとした制作上の答えだったのです。

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