岩明均は『寄生獣』の前に何を描いていた?初連載『風子のいる店』と人物描写

喫茶店ロドスの外観と、会計の言葉やお礼がつかえる風子を描く原作の一部 岩明均
『風子のいる店』の一部/岩明均、講談社。

岩明均さんの初連載は、喫茶店で働く女子高生を描いた『風子のいる店』です。
『寄生獣』で知られるSFや恐怖の物語とは違い、人と話すことに悩む風子が、仕事場でさまざまな人と出会う青春漫画でした。
『寄生獣』にも、家族との会話や高校生の日常が描かれています。
喫茶店での接客と、家庭で交わす会話から、二つの作品の人物描写を見ていきます。

初連載の主役は、喫茶店で働く女子高生

『風子のいる店』文庫版第1巻の表紙
『風子のいる店』文庫版第1巻/岩明均、講談社。 出典

『風子のいる店』は、1985年から『モーニング』に掲載された作品です。
講談社の第1巻紹介では、風子が他人と話すと言葉がつかえること、喫茶店で働き、マスターや客と交流することが説明されています。
物語の舞台は、風子が働く喫茶店ロドスです。

『寄生獣』では、泉新一の右手に寄生生物のミギーが宿ります。
岩明さんの初連載は、そのような異変から始まるSFではなく、店へ来る人とのやり取りを描く作品でした。

接客の言葉と、風子自身の変化

喫茶店ロドスの外観と、会計の言葉やお礼がつかえる風子を描く原作の一部
『風子のいる店』、喫茶店で接客する風子/岩明均、講談社。 出典

風子は会計の金額を伝え、お礼を言おうとしますが、言葉がつかえてしまいます。
客との短いやり取りにも、風子の話しにくさが表れています。

会話の中で、人前で話せなかった頃の自分や、にぎやかに話す人たちを思う風子
『風子のいる店』、自分を振り返る風子の独白/岩明均、講談社。 出典

風子は、人前ではほとんど話せなかった頃の自分を思い返します。
にぎやかに話す人たちと自分とを比べる独白もあります。
人と話す場面から、風子が自分をどう感じているかも読めるのです。

講談社の第4巻紹介では、店でさまざまな人と交流した風子が、次第に心を開き、大学で新しい目標を求めるところまで案内されています。
一人の女子高生が、周囲と関わる中で変わっていく物語です。

『寄生獣』でも、異変は普段の生活の中に起きる

『寄生獣』アフタヌーンKC版第1巻の表紙
『寄生獣』アフタヌーンKC版第1巻/岩明均、講談社。 出典

『寄生獣』の冒頭には、出勤前の会話を交わす夫婦が登場します。
妻が弁当や朝食のことを気に掛ける、家庭のやり取りです。
その家で夫の顔が異様な姿へ変わり、妻は目の前の変化に驚きます。
恐怖が起きる場所にも、家族が交わす普段の言葉があるのです。

1990年の『アサヒグラフ』の書評では、竹内オサムさんが、『寄生獣』の高校生の生活の現実感や、ホラーにユーモアが加わる魅力を取り上げています。
異様な姿や戦いに加えて、登場人物の生活も読める作品でした。

『風子のいる店』は、人と話すことが難しい少女の生活を描きます。
『寄生獣』は、人間とは異なる生物が入り込む生活を描きます。
題材は変わっても、日常のやり取りが人物や出来事を伝える場面になっています。

人物の返事から考えや経験を読む描き方は、岩明均さんの会話を扱った記事でも紹介しています。

まとめ

初連載の風子を知ると、岩明さんの漫画には、SFの異変を描く以前から、人とのやり取りを通して人物を見せる作品があったと分かります。
その後の『寄生獣』では、家庭での普段のやり取りが、恐ろしい変化と同じ場面で続きます。
喫茶店の日々を描いた初連載から読むと、岩明さんの人物の描き方を、代表作の怖さとは別の入り口から楽しめます。

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