『東京喰種トーキョーグール』の石田スイさんは、冨樫義博さんの作品、とりわけヒソカを好きな漫画家です。
その思いから生まれたのが、石田さん自身の考えたヒソカの過去を描く企画でした。
冨樫さんの了承を得て制作した69ページのネームと、二人の対談が2016年に公開されています。
興味深いのは、憧れの作者に作品を見てもらうだけで終わらなかったことです。
ネームを読んだ冨樫さんにも、その物語へつながる話を描いてみたいという気持ちが生まれました。
ヒソカの物語を描く企画は、編集部の提案から始まった
きっかけは「少年ジャンプ+」側から石田さんへの執筆依頼でした。
以前、前身の「ジャンプLIVE」で『東京喰種トーキョーグール JACK』を描いていた縁があり、再び漫画をお願いしたいという話になったのです。
そこで編集部が注目したのが、石田さんのヒソカへの思いでした。
担当編集を通じて相談された冨樫さんは、企画を歓迎します。
原作者が考えている過去設定があるなら知りたい、と望んだ石田さんに対し、冨樫さんは、石田さんが考えるヒソカを自由に描いてよいと伝えました。
あらかじめ用意された筋を漫画にするのではなく、物語を考えるところから石田さんに任せたのです。
この経緯は、公式の特別対談で編集部から説明されています。
尊敬する作者に見せるからこそ、約1年かかった
自由に描けることは、石田さんにとって簡単に描けることではありませんでした。
冨樫さんに見せる以上、自分で納得できないものは出したくない。
自分なりに『HUNTER×HUNTER』の世界を描こうと考え込むうち、約1年が過ぎたと振り返っています。
完成したネームは69ページ。
連載を続けながら取り組んだ作品は、冨樫さんが驚くほどの分量と描き込みになっていました。
コマ割りや台詞を組み立てるネームの段階でも、石田さん自身が普段より描き込んだと認めています。
冨樫さんが驚いた、念能力の使い方
冨樫さんは、出来上がった作品のどこを面白いと思ったのでしょうか。
対談で具体的に挙げた一つが、ヒソカの「薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)」の使い方です。
石田さんは、ハンカチを変化させて犯人の顔を隠す場面を描いていました。
それは冨樫さんも、本編で使おうと思っていた発想だったといいます。
自由に考えてよいという依頼から生まれた漫画に、原作者の考えとも重なる仕掛けがあったわけです。

さらに冨樫さんは、人物の顔が持つ雰囲気や、戦闘場面のスピード感にも言及しています。
設定の扱いだけでなく、石田さんが描く漫画の魅力を見ていたことが、ネームを語る対談から伝わってきます。
ヒソカが倒れていた理由は、描かれなかった
もう一つ、冨樫さんが尋ねたのが冒頭です。
倒れているヒソカが登場するものの、なぜそうなったのかは説明されません。
石田さんは、意図して背景を描かなかったと答えています。

過去を扱う企画であっても、生い立ちを全部説明する必要はない。
冨樫さんは、その空白によって読者が理由を想像できるところを気に入っていました。
そして話は、作品への感想から、冨樫さん自身の描きたい漫画へ進みます。
石田さんの冒頭につながる、さらに前のヒソカを描いてみたい。
冨樫さんがそう話すと、制作に悩んできた石田さんは、光栄で嬉しいと応じました。
これは当時語られた創作への意欲で、掲載予定の発表ではありません。
また、この対談では、石田さんの物語全体を本編の確定設定にするとの発表も行われていません。
二人のやり取りは、対談の最終ページで読めます。
まとめ
この企画の面白さは、石田さんが憧れの人物を描いた作品を、今度は冨樫さんが一人の読者として楽しんでいるところにあります。
自分も考えていた能力の使い方に驚き、描かれていない冒頭の手前を想像する。
ヒソカへの思いを込めた一作が、ヒソカを生んだ作者にも新たな話を考えさせたというやり取りに、二人の関係の魅力が表れています。


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