『るろうに剣心』の敵役を和月伸宏はどう描いた? 勝敗と正しさを分ける理由

志々雄真実が表紙の『るろうに剣心 完全版』14巻。和月伸宏/集英社 和月伸宏
『るろうに剣心 完全版』14巻の表紙。和月伸宏/集英社。

和月伸宏さんは、人物を作るときに性格や信念などの核から考えると語っています。
『るろうに剣心』では、敵となる志々雄真実や瀬田宗次郎にも、それぞれの考えを持たせました。
そして剣心が敵に勝っても、勝利だけで剣心の考えが正しいとは決めません。
和月さんへの取材から、敵役の作り方と戦いの描き方をたどります。

志々雄は、和月が描きたかった「悪漢」

集英社の若手作家との対談で、和月さんは人物を作るとき、容姿よりも性格、使命、信念といった内面の核を先に考えると話しています。
その人物を物語の中で生かせるか、ネームで試してから原稿にするそうです。

志々雄は、その説明に続いて和月さんが挙げた例でした。
和月さんにとって志々雄は、自分が考える悪漢の集大成です。
強い信念を持ち、有能な者たちを周囲に集める、力のある敵として形にしました。
和月さんは、描きたかった悪役の姿を志々雄に込めたのです。

同じ対談で、和月さんは武田観柳にも触れています。
観柳は金に汚い人物ですが、その言い分には和月さん自身が共感する部分もあると説明しました。
和月さんは自分の考えをそのまま人物に写す場合だけでなく、抱えているものをひねったり、嫌いな相手への気持ちを出発点にしたりするとも話しています。
一人の作者から、志々雄と観柳のように違う敵が生まれます。

志々雄は国を動かす野望、縁は剣心への復讐

和月さんは長岡市による取材で、志々雄と雪代縁の違いも説明しています。
志々雄には時代を動かそうとする大きな野望を与え、巨大な暴力を振るう悪漢として描きました。
和月さんは、志々雄に繊細な内面を与えなかったことが、かえって魅力につながったかもしれないとも話しています。

一方、縁の行動は姉・巴をめぐる剣心への恨みから始まります。
和月さんは縁の物語を、個人の感情に根ざしたものとして志々雄と区別しました。
どちらも剣心の敵ですが、同じ信念を持った悪役を二人並べたわけではありません。
志々雄と戦う剣心は国の行く末に向き合い、縁と向き合う剣心には、巴の死に関わった自分の過去が迫ります。
和月さんは、この二人を通して簡単な答えを示すつもりはなかったと話しています。
剣心が自分の過去に明確な答えを出せず、悩み続ける姿を描きたかったというのです。

雪代縁を表紙に描いた『るろうに剣心 完全版』21巻
雪代縁を表紙に描いた『るろうに剣心 完全版』21巻(和月伸宏/集英社)。

剣心が宗次郎に勝っても、剣心の正しさは証明されない

和月さんが敵との戦いについて繰り返し話しているのは、勝敗と正しさを分けることです。
2016年の本人取材では、善悪を先に決めて敵を倒し、そこで話を終える展開にはしっくりこないと語りました。
志々雄を倒したからといって、剣心の考えが自動的に正しくなるわけではない、とも説明しています。

瀬田宗次郎が表紙の『るろうに剣心 完全版』13巻
瀬田宗次郎を表紙に描いた『るろうに剣心 完全版』13巻(和月伸宏/集英社)。
集英社の書誌

長岡市の取材では、瀬田宗次郎との戦いを具体例に挙げました。
宗次郎は志々雄の弱肉強食の考えを信じています。
剣心と宗次郎の戦いについて、和月さんは、勝った者を正義とするなら志々雄と同じ考え方になる、という剣心の判断を説明しました。
剣心は宗次郎を止めるために戦う。
しかし勝利だけを根拠に、自分の信念の正しさを証明することはしません。

「強い敵」と「力の使い方」を両方描きたかった

和月さんは、戦いや強い人物への憧れがあることも隠していません。
そのうえで長岡市の取材では、強さだけに頼る人物を格好いいとは考えない、と話しています。
力を持った人が、それをどう使うかを考えることも大切にしたそうです。

和月さんは、強い敵と戦う面白さを保ちながら、勝った剣心が何を守り、力をどう使うのかも描こうとしました。
戦いを楽しめる少年漫画にしつつ、人を傷つけることまで単純な勝敗で割り切らないようにしていました。

まとめ

志々雄の野望、縁の恨み、宗次郎が信じた弱肉強食は、それぞれ剣心に違う形で迫ります。
和月さんは人物の内面から着想を得ると語り、剣心の前に異なる目的を持つ敵を置きました。
敵を倒せば戦いは終わります。
それでも剣心が自分の力を何のために使うのかは、勝敗とは別に考え続けなければならない。
敵を魅力的に描くことと、主人公を無条件に正しい側へ置かないことが、『るろうに剣心』では結び付いています。

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