徳弘正也さんは、時代劇でも、剣の強さと暮らしの厳しさを一緒に描いています。
『黄門さま~助さんの憂鬱~』では、貧しさから抜け出そうとする侍が、危険な仕官試験へ。
『もっこり半兵衛』では、仕官を断った浪人が、月一両で江戸の夜廻りを引き受けます。
二作品を、主人公の仕事と暮らしから紹介します。
『黄門さま』は、仕官を望む侍が後任試験へ
『黄門さま』の主人公・井上進ノ助は、貧乏から脱却しようと、水戸藩の剣術指南役の仕官試験へ向かいます。
進ノ助が知ることになるのは、光圀の旅で助さんや格さん、くノ一たちが命を落としているという事情です。
その試験は、死んだ助さんの後任を選ぶためのものでした。

世直しの旅を、付き従う侍の就職先として見せるところから、物語が始まります。
剣の腕を認めてもらえば、安心して暮らせるとは限らない世界です。
徳弘作品のファンであるエル・デスペラードさんは、2022年のインタビューで、助さんが強くても光圀の権力に逆らえない点に注目しています。

『もっこり半兵衛』は、仕官を断った侍の仕事を描く
月並半兵衛は、かつて藩の剣術指南役だった浪人です。
脱藩して江戸へ来た半兵衛は、襲撃されていた柳沢吉保を助けます。
剣の腕を見た吉保は、まず、半兵衛に柳沢家への仕官を持ちかけます。
ところが、半兵衛はその申し出を断ります。
侍の暮らしに嫌気が差して脱藩し、仕官はもうやめたというのです。
そこで吉保が頼んだのが、江戸の夜の町を守る仕事でした。

吉保は、自分は政治で庶民のためになることができなかったと語ります。
せめて償いとして人のためになりたいと話した後、半兵衛のもとへ、提灯と蝋燭、そして一両が届きます。
半兵衛はその夜から、夜廻りになりました。
進ノ助は藩の役目に就こうと試験を受け、半兵衛は藩への仕官を断ってから町の仕事を受けます。
二人の出発点を並べると、徳弘さんが時代劇で描く侍には、身を立てたい若者も、藩への仕官をやめた男もいることが分かります。
娘を見守る隣人も、夜の町で会う人々もいる
『もっこり半兵衛』の冒頭では、夜廻りを始めてから八年が経っています。
半兵衛は娘のさおりと暮らし、夜には提灯を持って町へ出ます。
半兵衛が出かける時、隣人の「のぞきばばあ」は、留守番をするさおりを見ています。
半兵衛の夜廻りには、町で働く夜鷹たちも協力します。
半兵衛は、守る人であると同時に、周囲の人に支えられて暮らす人でもあります。

半兵衛を描く徳弘さんの笑いは、格好のつく場面だけを選びません。
半兵衛は自分の名前を名乗っても、人々から呼ばれるのは「もっこり半兵衛」です。
強い剣士を、近所で顔を合わせる男としても読めるところに、この時代劇の親しみがあります。
徳弘さんのギャグとシリアスの組み合わせは、『ターちゃん』から青年誌の作品まで続いています。
時代劇でも、剣の強さや人物の苦い事情と、力の抜けた笑いが同じ主人公の中にあります。
まとめ
『黄門さま』の仕事探しや、『もっこり半兵衛』の子育てには、剣の強さだけでは伝わらない侍の暮らしがあります。
仕事選びや留守番のやり取りまで読んでいくと、主人公は遠い時代の剣士でありながら、町で働き、家族と暮らす人としても身近になります。


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