『るろうに剣心』剣心が償いの答えを得ても、縁との和解が完成しない理由

最終話と特別編『弥彦の逆刃刀』を収めた単行本第28巻の表紙 るろうに剣心
『るろうに剣心』第28巻表紙/和月伸宏・集英社

縁との最後の戦いで、剣心は人斬りの罪にどう向き合うか、自分の答えを口にする。
剣心は縁に勝ち、薫も取り戻した。
それでも、縁が剣心を許した場面はない。
剣心の答えは、許してもらえたから成立したものではないからだ。
人誅編の結末は、剣心が進む道を決めることと、巴を失った縁がどう生きるかを、別々の問題として残している。

剣心の答えは、縁を説得する言葉なのか

縁は巴を殺した剣心を憎み、その憎しみを人誅に変えた。
人誅が始まった頃、剣心は「どうすれば拙者は許される」と悩んでいた。
剣心が縁との最初の対決で追い詰められたのは、技の相性だけが理由ではない。
剣心は、償いの答えをまだ見つけられないまま、巴の弟と向き合っていた。

剣心と縁が初めて戦う原作場面
『るろうに剣心』人誅編/和月伸宏・集英社

二度目の対決で剣心が示す答えは、許しを得るための手順ではない。
剣心は、剣と心を賭して闘いの人生を完遂する、と宣言する。
これから守れる人を守り続けるという、剣心自身の生き方だ。
亡き巴にも縁にも許されたとは言わず、許されるかどうかを決められないまま生きていく。

剣と心を賭して闘いの人生を全うすると語る剣心の原作コマ
『るろうに剣心』人誅編/和月伸宏・集英社

しかし、その行動で巴は戻らない。
縁が失った姉を取り戻せないことも変わらない。
だから縁には、剣心の決意を受け入れない理由が残る。
人誅の初めに剣心が求めていた許しを、縁から得られたわけではない。
そのままでも守ることを続ける、というのが剣心の答えだった。
剣心がこれから人を守り続けても、巴を失った縁が許す義務は生まれない。

薫を守った縁は、剣心を許したのか

縁は最終対決に敗れた後、呉黒星の銃撃から薫を守る。
剣心が礼を言うと、縁は「違う」と返す。
縁は薫が撃たれるのを見過ごせなかった。
一方で、剣心への憎しみがその場で消えたとは言えない。

最後の対決で刀を打ち合わせる剣心と縁の原作場面
『るろうに剣心』人誅編/和月伸宏・集英社

ここで大切なのは、縁の行動を一つの結論に急いで変えないことだ。
薫を守ったのは事実だが、縁は剣心を許したとは言わない。
縁は自分が本当に守りたかった巴を思い起こし、泣き崩れる。
薫を守る行動は縁の中の変化をうかがわせるが、物語はその変化がどう進むかを、ここでは示さない。

巴の日記は、和解の証明になるのか

戦いの後、薫は縁に巴の日記を渡す。
日記は、縁が姉の思いを知り直す手がかりになる。
ただし、日記を受け取ったことと、そこに書かれた巴の思いを縁がどう受け止めたかは別だ。
物語は、縁が日記を読み、剣心を許すところまで描いてはいない。

その一方で、剣心は薫と巴の墓を訪れる。
剣心は巴に感謝と謝罪、別れを告げ、薫とこれからの人生へ進む。
同じ結末の中で、剣心の歩みには進む方向が与えられ、縁のこれからには余白が残る。

巴と剣心が描かれた『るろうに剣心』第28巻の表紙
『るろうに剣心』第28巻/和月伸宏・集英社

剣心が巴の死を忘れて前へ進むわけではない。
縁が剣心を許さなくても、剣心は自分の罪を背負って守ることを続ける。
剣心は縁の代わりに、巴の死への答えを決められない。
決闘が終わっても和解を描き切らない結末には、剣心の決意で縁の痛みまで解決したことにしない、という慎重さがある。

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