『るろうに剣心』弥彦はなぜ逆刃刀を返したのか――受け継いだのは刀だけではない

弥彦と剣心を含む『るろうに剣心 完全版』第22巻の表紙 るろうに剣心
『るろうに剣心 完全版』第22巻/和月伸宏・集英社

旧本編の最後、剣心は十五歳になった弥彦へ逆刃刀を譲る。
弥彦が剣心の後を継ぎ、新しい時代へ進む結末だった。
ところが『北海道編』で弥彦は、その逆刃刀を剣心に返す。
大切な結末を取り消したようにも見える場面だ。

ただ、刀を渡された弥彦がその後に何をしたかまで追うと、受け渡しの意味は少し変わる。
剣心が託したのは、逆刃刀を持ち続ける役目だったのだろうか。

十五歳の弥彦に逆刃刀を差し出す剣心の原作場面
『るろうに剣心』最終話/和月伸宏・集英社

逆刃刀を受け取った弥彦は、剣心の代わりになったのか

最終話で剣心は弥彦との勝負に勝ちながら、逆刃刀を譲る。
弥彦が負けたことを気にすると、剣心は勝ち負けを見ていたのではないと答える。
剣の腕を競って勝った者に、刀を与えたわけではない。

その後の特別編『弥彦の逆刃刀』では、弥彦が人質を取った武藤要を止める。
戦意を失った武藤に、さらに銃を向ける警官・北鬼を制したとき、弥彦は逆刃刀を抜いた。
弥彦は剣心から受け取った刀を、剣心の指示ではなく、目の前の人を守る自分の判断で使っている。

特別編で人の命を奪おうとする相手を止める弥彦の原作場面
『弥彦の逆刃刀』/和月伸宏・集英社

刀を受け取った弥彦は、剣心からの信頼を一度、自分の行動に変えている。

剣心には必要な刀が、弥彦には最良とは限らない

『北海道編』で剣心と立ち合った弥彦は、逆刃刀を使いこなす難しさを知る。
刃が逆についていても、強く打てば人を傷つける。
相手を殺さずに止めるには、打撃の威力を細かく加減しなければならない。
人斬りとして剣を振るってきた剣心には、その加減をする技量がある。

逆刃刀で相手を殺さずに戦うための力加減を示す原作場面
『るろうに剣心 北海道編』第3幕/和月伸宏・黒碕薫・集英社

一方、弥彦が修めてきたのは神谷活心流だ。
弥彦は竹刀で強くなり、これからもその剣術を磨いて人に教えたいと話す。
逆刃刀を使うために別の技を一生かけて身につける道も、弥彦には考えられた。
だが弥彦が選んだのは、剣心の戦い方を再現することではなく、自分が学んだ剣術を次の人へ渡すことだった。

刀の返却には、剣心への憧れと、自分の進路を分けて考えた弥彦の判断がある。
剣心が続ける戦いを弥彦が引き受けないことと、弥彦が人を守る気持ちを失うことは、同じではない。

返却で変わったもの、残ったもの

逆刃刀を返す場面には、旧作の終わりを惜しむ気持ちも残る。
あの最終話では、剣心の刀を背負って弥彦が歩き出す姿が、新しい世代の始まりに見えた。
刀が剣心へ戻れば、その形での世代交代は続かない。
返却を「実は何も変わっていない」と片づけることはできない。

北海道へ向かう剣心に逆刃刀を返す弥彦の原作場面
『るろうに剣心 北海道編』第3幕/和月伸宏・黒碕薫・集英社

それでも、弥彦が逆刃刀を持った時間は消えない。
弥彦はその刀を使い、誰を守るかを自分で決めた。
北海道へ向かう剣心には逆刃刀が必要だと判断し、弥彦自身は神谷道場で竹刀の剣術を教える。
剣心の信念を受け取った弥彦が、剣心と違う方法を選んだのだ。

もし逆刃刀を受け継ぐことが、剣心の生き方をそのまま繰り返す約束だったなら、返却はその約束の終わりになる。
だが弥彦は、託された刀を飾っていたのではなく、使ったうえで、自分と剣心のどちらに今必要かを考えた。
剣心の後ろを走っていた少年が、自分の立つ場所から人を守る。
逆刃刀を返す決断は、旧作の結末を変えながら、弥彦がそこから育ったことも見せている。

この記事もおすすめ

コメント

アクセス解析について
タイトルとURLをコピーしました