樹林伸の漫画原作は小説とどう違う? 絵と読むリズムを考える脚本

亜樹直原作・オキモト シュウ漫画 マリアージュ 神の雫 最終章 第1巻の表紙 樹林伸
『マリアージュ ~神の雫 最終章~』第1巻。亜樹直原作、オキモト・シュウ漫画。©亜樹直・オキモト・シュウ/講談社。

樹林伸の漫画原作は、台詞とト書きで書く脚本形式です。
ト書きとは、人物の動きや表情など、台詞以外の指示を書く文章です。
樹林さんは頭に絵を浮かべ、ページやコマの区切りまで考えながら脚本を書いています。
小説も手がける本人が、2019年の講談社モーニングのインタビューで、その違いを説明しました。

2019年の講談社の取材に掲載された樹林伸の写真
2019年のインタビューに掲載された樹林伸の写真。講談社モーニング。 出典

台詞とト書きで、漫画家に場面を伝える

樹林さんは『GetBackers』の青樹佑夜、『サイコメトラーEIJI』の安童夕馬など、複数の名義で漫画原作を書いてきました。
その脚本には、人物が何を言うかに加えて、どのように動くか、どんな表情をするかが書かれています。
台詞を描き文字でどう入れるかまで指定することもあるそうです。

マリアージュの台詞とト書きが並んだ樹林伸の脚本
『マリアージュ』の脚本。台詞と人物の動きを指定する文章が並ぶ。周囲の白い余白のみ除去。©亜樹直/講談社。タップすると原寸で読めます。 出典

公開された『マリアージュ』の脚本でも、話す人物の名前と台詞の間に、表情や動きの指示が入っています。
登場人物がどんな顔をし、何を取り出すのかを、台詞の合間に短い文章で伝える。
作画担当の漫画家が、その場面を絵にするための文章です。

樹林さんは、基本的には凝った文章でなくてよいと話しています。
雰囲気を伝えるために書き込むことはあっても、原作を美しい文章にすること自体を目標にはしていません。
絵を思い浮かべ、その絵に必要なことが漫画家へ伝わる書き方を考えているのです。

箸とフォークなら、一目で勝ち負けが伝わる

漫画と小説で表現を変えた例として、樹林さんが挙げたのは『マリアージュ ~神の雫 最終章~』です。
姉の樹林ゆう子と使う共同名義「亜樹直」で原作を書き、オキモト・シュウが漫画を描いています。

亜樹直原作・オキモト シュウ漫画 マリアージュ 神の雫 最終章 第1巻の表紙
『マリアージュ ~神の雫 最終章~』第1巻の書影。亜樹直原作、オキモト・シュウ漫画。©亜樹直・オキモト・シュウ/講談社。 出典

本人が説明したのは、和の「おうべるじゅ」と洋の「オーベルジュ」のどちらを選ぶか示す場面でした。
和を選ぶ人は箸、洋を選ぶ人はフォークを持ち上げる方法を、樹林さんは考えます。
姉は、投票や、選んだ方を札に書いて上げる方法を提案しました。

そこで樹林さんは、一度絵を思い浮かべます。
札の文字を読んで数えるより、箸とフォークの違いを見せた方が、一瞬でどちらが勝ったか分かる。
そう考えて、箸とフォークを使う方法を選びました。

小説なら、和と洋を選んだ人数を地の文で書けば伝えられる、と本人は説明しています。
漫画では、文字を読む手間を増やすより、形の違いを見て分かるようにする。
ここでは同じ選択結果を、漫画で見やすい行動へ変えているのです。

漫画家が絵を描く前に、原作者も絵の伝わり方を考える。
この姉弟のやり取りは、その仕事を具体的に表しています。

コマやページで、読むリズムも考える

樹林さんは、漫画なら作り手が思い描いた光景を読者へ伝えやすいと話しています。
人物の表情やその場の様子を、絵として示せるためです。
小説では、書き手と読み手が別々の光景を思い浮かべることもあります。

青樹佑夜著・綾峰欄人絵のサイコバスターズ小説第1巻の表紙
樹林伸が青樹佑夜名義で書いた小説『サイコバスターズ』第1巻。絵は綾峰欄人。©青樹佑夜・綾峰欄人/講談社。 出典

本人は、数ページに一度、読者を楽しませる工夫を入れることも説明しています。
頭の中でコマを割り、ページの流れを考えながら原作を書く。
出来事を並べるだけでなく、どこで読者に楽しんでもらい、次を読みたいと思ってもらうかまで考える方法です。

樹林さんの方法では、文章を漫画家に渡す前から、読むリズムの検討が始まっています。

自分の脚本を、下手な絵でもネームにしてみる

樹林さんが原作を書く人へ勧めた練習は、自分の脚本をネームにしてみることでした。
ネームは、コマを割り、台詞や簡単な絵を入れた下描きです。
人物を上手に描く必要はなく、簡単な丸や線でもよいと説明しています。

樹林さんは講談社の編集者だったころ、新入社員にもネームを作るように伝えていました。
漫画家のネームを直す仕事をするなら、まず自分でもコマを割り、台詞を入れる作業を経験する必要があると考えたからです。
編集者時代から原作も書いていた経緯を知ると、この勧めが本人の仕事とつながっていることが分かります。

脚本を絵にしてみると、漫画家に渡す文章を、実際のコマの流れで見直せます。
樹林さんは自分の脚本を書くだけでなく、漫画家が上げたネームも読み、担当編集者を交えて案を出し合うと話しています。
原作を完成させた後も、漫画としてどう見せるかを一緒に考えているのです。

まとめ

樹林さんの漫画原作は、台詞を用意したうえで、人物の動きやコマの流れまで考える仕事です。
箸とフォークの工夫から分かるのは、説明する言葉を増やす前に、どう描けばすぐ伝わるかを考える姿勢です。
原作者の発想は、人物の台詞だけでなく、場面を分かりやすく見せる動きや読むリズムにも生かされています。

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