地下に落とされたカイジには、地上へ出るための計画があった。
給料を六か月貯め、一日外出券を買う。
その計画が揺らいだのは、大槻から受け取った小さなビールをきっかけに、売店で買い始めた後だ。
最初の一本は無料で、ビールを飲むこと自体が悪いわけでもない。
では、なぜ一杯の楽しみが地下から出る計画を崩すところまで進んだのか。
鍵になるのは、ビールを売る大槻が、カイジの給料を使わせる次の道まで用意していたことだ。
六か月の計画には、四万六千ペリカの余裕があった
地下の仕事場は熱く、粉塵と悪臭に満ちている。
働いた後の冷たいビールにカイジが引かれるのは、見栄や気まぐれだけではない。
疲れた身体には、すぐ手に入る楽しみが切実だった。

カイジの初給料は九万一千ペリカ。
一日外出券の五十万ペリカを、六か月で貯めようと考える。
六か月の給料は五十四万六千ペリカだから、差額は四万六千ペリカある。
カイジは、この余裕なら少し使っても大丈夫だと思う。


数字だけを見れば、計画は間違っていない。
ただし四万六千ペリカは、六か月全体に残された余裕だ。
最初の給料日だけの自由な予算ではない。
この余裕を一日の予算のように見たことが、その後の買い物で響く。
無料だったのは、最初の小さな缶だけ
大槻はカイジに、百三十五ミリリットルの缶ビールを渡す。
この一本に代金はかからない。
冷たいビールを飲んだカイジは、売店の品を自分のペリカで買い始める。

無料の一本を渡すことと、以後の買い物は分けて見る必要がある。
大槻がカイジから最初の缶の代金を取ったわけではない。
カイジも、追加のビールやつまみを自分で選んでいる。
その選択が大槻にとって好都合なのは、売店の品を買うたび、カイジの給料が外出券ではなく大槻の商売へ向かうからだ。

ここで怖いのは、一本の値段ではない。
厳しい仕事を終えるたびに「今日くらいは」と思える環境と、すぐ買える品がそろっていることだ。
「少しだけ」の初日に、余裕はほぼ消えた
カイジは翌日、前日に四万一千ペリカを使ったと気づく。
六か月の計画にあった四万六千ペリカの余裕は、最初の一日でほぼなくなった。
カイジは貯める期間を七か月に延ばし、翌日もビールに手を出す。
目標を捨てずに達成日を後ろへずらすことで、今日の支出を許してしまう。


一杯のビールなら、四万六千ペリカの範囲に収まったかもしれない。
だがカイジが実際に買ったのは一杯だけではない。
最初の支出で貯蓄期間が延びても、カイジは次の日にまた飲んだ。
大槻にとっては、カイジが一度だけ買って終わるより、何度も売店へ戻るほうが得になる。
金が足りなくなると、大槻は次の道を示す
支出を悔やむカイジに、大槻は給料の前借りを勧める。
前借りには手数料がかかり、翌月以降の手取りが減る。
大槻はさらに、自分が開く地下チンチロという賭博へカイジを誘う。


カイジは自分で買い、借り、賭ける。
大槻はそのたびに、売り手、金を貸す側、賭場の主催者としてカイジの前にいる。
売店の客だったカイジが金を使い切れば、今度は賭場の客にもできる。
カイジ一人の我慢の問題だけで見ると、この大槻の商売のつながりが見えなくなる。
ビールの味に救われる時間は、地下で働くカイジにとって本物だった。
大槻は、その切実な喜びを最初の無料の缶でカイジに味わわせた。
カイジは外出券のために稼いだ給料を売店で使い、金が足りなくなると前借りして賭博へ向かう。
あの小さな缶は、一度きりの休息で終わらず、地下で稼いだペリカをまた使わせる商売の入口になっていた。


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