『カイジ』和也は裏切りを見抜いたのか? 救出ゲームで作られた疑い

カイジと救出ゲームの三人が描かれた和也編第8巻の表紙 カイジ
『賭博堕天録カイジ 和也編』第8巻/福本伸行・講談社

光山が救出ボタンを押さず、チャンとマリオを見殺しにしようとした時、和也は自分の予想が当たったと喜ぶ。
人間は追い詰められれば仲間を裏切る。
和也は三人の「救出」ゲームを、その証拠にしたかった。
だが、三人の間に疑いが広がる前に、和也自身がゲームへ手を加えている。
和也が見たのは、もともとあった裏切りなのか。
それとも、自分で生んだ疑いの行き着く先だったのか。

救出ゲームの三人を前にして危機を感じるカイジ
『賭博堕天録カイジ 和也編』/福本伸行・講談社

光山の遅れは、裏切りではなかった

三人は、選ばれた救出者が席を離れてボタンを押せば、残る二人を助けられる。
序盤の三人は、救出者が分かると声を掛け合い、協力して回を重ねていた。
和也はそこで、救出者になった光山のベルトを一時的に外れなくする。
光山は席を離れたくても離れられず、チャンとマリオには、光山がなかなか助けに来ないように見える。

カイジが叫ぶ『賭博堕天録カイジ 和也編』第5巻の表紙
『賭博堕天録カイジ 和也編』第5巻/福本伸行・講談社

この仕掛けが残酷なのは、三人が同じ場面について別々の情報を持たされることだ。
光山は、自分が脱出を試みたと知っている。
チャンとマリオは、その手元を見られない。
二人に分かるのは、救出が遅れたという結果だけだ。
光山が事情を説明しても、仲間には、それが本当か確かめられない。
この回で光山に向けられた疑いは、光山の裏切りではなく、和也が隠して行った細工から生じた。

同じ疑いの中でも、三人の選択は分かれた

和也の細工は、三人をすぐには崩せなかった。
第12回戦でチャンは二人を助け、第14回戦ではマリオも恐怖に迷いながら救出ボタンを押す。
二人にも、自分だけ生き残り、大金を取る道はあった。
それでも二人は、光山を含む仲間を助けた。

カイジと救出ゲームの三人が描かれた和也編第8巻の表紙
『賭博堕天録カイジ 和也編』第8巻/福本伸行・講談社

第15回戦で救出者になった光山は、ボタンを押さない。
光山は、次にチャンが救出者になったら自分を助けてくれるのか、疑いを口にする。
和也は光山に考える時間を追加で与え、光山はチャンの訴えを聞いた後も、救出を拒む。
和也の細工は三人の信頼を揺らした。
その中で、チャンとマリオを助けないと決めたのは光山自身だ。

カイジと光山が描かれた和也編第9巻の表紙
『賭博堕天録カイジ 和也編』第9巻/福本伸行・講談社

和也が欲しかった答えは、三人の結果と合わない

光山の裏切りを見て、和也は人間の本性を言い当てたつもりになる。
しかし、同じゲームでチャンとマリオは救出を選んでいる。
和也は三人の行動を見ながら、自分に都合のよい光山の選択だけを、人間一般の答えにしてしまう。

光山の行動を、和也のせいだけで片づけることもできない。
ゲームの後、光山はチャンとマリオと再会しても、裏切りで得た約七千万円を自分のものだと主張する。
光山は二人に百万円の札束を差し出すが、残りの大金は持ち続けようとする。
光山には、和也の細工だけでは説明できない金への執着もある。
それでも、光山は初めから仲間を見殺しにしていたわけではなかった。

裏切りで得た約7000万円を持って撤収すると話す光山
『賭博堕天録カイジ 24億脱出編』第260話/福本伸行・講談社
チャンとマリオに100万円の札束を差し出す光山
『賭博堕天録カイジ 24億脱出編』第260話/福本伸行・講談社

和也は、光山が救出を遅らせたように見える場面を作った。
その後、光山は本当に救出しなかった。
この二つを続けて読むと、救出ゲームの恐ろしさがはっきりする。
和也が作った「裏切りに見える出来事」は、三人の間に疑いを残した。
最後には光山自身が仲間を疑い、救出を拒む理由としてその不信を口にする。
和也が確かめたのは、手つかずの「人間の本性」ではない。
自分が揺らした信頼の中で、三人がそれぞれ何を選ぶかだった。

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