『カイジ』はなぜ石田の息子を助けたのか? 殴った相手を救うまで

地下の医務室で石田広光がカイジへ名乗る カイジ
画像出典:『賭博破戒録カイジ』第3巻/福本伸行・講談社

地下で出会った石田広光は、自分の借金を返せなかった父・石田光司を責める。
父の最期を知るカイジは怒って広光を殴った。
ところが「沼」に勝った後、カイジは広光を地下から出すよう頼む。
カイジは広光の言い分に納得したのだろうか。
救出の理由は、広光への好意よりも、命を落とした父が息子のためにしようとしていたことにある。

広光は、父がどこへ行ったのか知らなかった

広光は自分で作った約三百万円の借金について、親なら払うはずだとカイジに話す。
石田光司は「何とかする」と言って家を出たまま、広光のもとへ戻っていない。
広光はその言葉を、結局何もしてくれなかった父への不満として語った。

地下でカイジに名乗る石田広光
『賭博破戒録カイジ』第3巻/福本伸行・講談社

カイジは、広光が知らない父の最期を見ていた。
石田光司は鉄骨渡りで恐怖に足を止められながらも、家族の借金を何とかしようとしていた。
カイジは、父が自分の借金だけでなく、広光の借金も背負って橋へ向かったのだと受け止める。
だから、何もしてくれなかった父だと決めつける広光の言葉に怒った。

石田光司を侮る広光を叱るカイジ
『賭博破戒録カイジ』第3巻/福本伸行・講談社

カイジが否定したのは、広光が地下へ落ちたという結果ではない。
父が最後まで苦しんだことさえ知らず、その父を責める言葉だった。

父が助けたかった相手は、広光だった

鉄骨の上で石田光司がカイジに託したのは、妻の借金を返すための一千万円の引換券だった。
カイジは、父から「息子を救え」と直接頼まれたわけではない。
しかし地下で広光と話したことで、父が広光の借金にも手を伸ばそうとしていたと知る。
広光を救うことは、カイジが石田光司の思いを引き受ける選択になった。

広光が父を責めた事実は、救出によって消えない。
カイジは広光の言葉を正しいと思い直したから助けるのではない。
広光がどんな態度を取ろうと、石田光司にとっては助けたかった息子だった。
カイジが放っておけなかったのは、その父の願いだ。

それでも、五人の取り分を勝手には使わない

「沼」に勝ったカイジは、地下に残した仲間五人の借金を返し、勝利の取り分も分けるつもりでいた。
ところが遠藤との借用書に書かれた高額な利息を見落とし、カイジの手元に残る金は大きく減る。
その状態でもカイジは、五人を救い出す約束を優先した。

地下の五人と取り分を分けると話すカイジ
『賭博破戒録カイジ』第13巻/福本伸行・講談社
五人を裏切れないと語るカイジ
『賭博破戒録カイジ』第13巻/福本伸行・講談社

五人の借金を返した後に残る金には、五人それぞれの取り分がある。
カイジは黒服に、五人が全員納得するなら、その金で広光を出してほしいと頼む。
一人でも嫌がれば、広光の救出は諦めるという条件も付けた。

五人の承諾を条件に広光の救出を頼むカイジ
『賭博破戒録カイジ』第13巻/福本伸行・講談社

石田光司の願いをかなえるためでも、仲間の金をカイジ一人の判断では使えない。
五人が承諾して初めて、広光の解放が決まる。
父への思いを、今ともにいる仲間への約束を破る理由にはしなかった。

殴ったことと、救ったことは矛盾しない

広光を殴ったカイジは、父の苦労を知らずに父を責める言葉を許せなかった。
広光を救ったカイジは、その父が助けようとしていた相手を地下に残せなかった。
広光への評価が変わったから、行動が変わったのではない。

地上で再会するカイジと地下の仲間
『賭博破戒録カイジ』第13巻/福本伸行・講談社

石田光司には果たせなかった広光の救出を、カイジは五人の承諾を得て実現した。
父を大切に思うからこそ息子の言葉に怒り、父を大切に思うからこそ同じ息子を助ける。
カイジの二つの行動をつなぐのは、広光ではなく石田光司だ。

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