『カイジ』はなぜ利根川に勝っても帰らなかったのか? 兵藤への怒りが再戦に変わるまで

賭博黙示録カイジ13巻の表紙 カイジ
『賭博黙示録カイジ』第13巻/福本伸行・講談社

カイジはEカードで利根川に勝ち、約2000万円を手にした。
ここで帰れば、指まで賭ける必要はなかった。
それでもカイジは兵藤に勝負を挑み、得た金も左手の指も失う。
何が彼を次の勝負へ向かわせたのか。
そして負けた後、カイジは何を悔やんだのか。

帰れなかったのではなく、兵藤を倒すと決めた

鉄骨渡りでは、カイジと同じ場にいた石田や佐原が命を落とした。
カイジは利根川に勝ち、石田の取り分も受け取る。
だが、利根川に土下座を求めた後、兵藤がそれを焼き土下座という制裁に変えた。
カイジが倒した幹部より上に、人の命も部下の身体も勝負の見世物にする兵藤がいる。

ここでカイジが目指すものは、金を持って帰ることだけではなくなる。
石田たちを死に追いやった帝愛の頂点に、勝負で一矢報いたい。
とはいえ、カイジは傷を負っており、仲間にも止められる。
いったん帰ろうとした時、耳の手当てに使ったティッシュ箱の隙間に気づき、くじに細工する方法を思いついた。
兵藤を倒したい気持ちに、勝つための手段が加わった。
帰る道が消えたのではない。
帰れるところまで来たカイジが、兵藤を相手に選んだ。

利根川との勝負を終えた後、兵藤にもう一勝負を求めるカイジ
『賭博黙示録カイジ』/福本伸行・講談社

自分で選んだ勝負の代償

カイジはティッシュ箱を使ったくじ引きを提案し、当たりくじを仕込む。
兵藤はその細工を見抜き、くじを箱の中で丸めて隠す。
さらに自分が引く当たりくじには、触って分かる折り目を付けた。
カイジは箱の中に仕込んだくじを見つけられないまま、兵藤に敗れる。

賭け金は一億円。
カイジの手元の金だけでは足りず、左手の指四本が不足分の担保になった。
この損失は、利根川に勝った後の帰り道を兵藤に塞がれた結果ではない。
兵藤を倒すために、カイジ自身が新たに引き受けた勝負の結果だ。
石田たちへの思いは切実でも、その思いだけで危険な賭けが安全になるわけではなかった。

負けた後、カイジが悔やんだこと

指を失った翌朝、同行した男は、利根川に勝ったところでやめるべきだったと考える。
カイジも兵藤に挑んだ判断を悔やむのかと思うと、彼の答えは違う。
兵藤がくじに付けた印を見つけ、勝負中にその仕掛けへ気づけたはずだと考え始める。
仕込んだ当たりくじが消えた時、カイジは理由を追う代わりに、当たりを引けるよう祈ってしまった。
彼が悔やんでいるのは、勝負を選んだことより、勝負の中で考える手を止めたことだった。

勝負のさなか、神に助けを求めてしまったカイジ
『賭博黙示録カイジ』/福本伸行・講談社

カイジは以前、勝利は神頼みではなく、具体的な勝算の先にあると語っていた。
兵藤の前では、そのカイジが自分で掲げた考えを守れなかった。
敗因を「兵藤には運があったから」で終わらせず、自分が見落とした手順をたどり直すところに、次は勝ちたいという思いが生まれる。

勝利は神頼みではなく具体的な勝算の先にあると語るカイジ
『賭博黙示録カイジ』/福本伸行・講談社

兵藤への怒りだけでは終わらなくなる

兵藤へ挑んだ時、カイジには石田たちへの思いがあった。
その思いが消えたとは言えない。
ただ、敗北の後にカイジが見つめるのは、兵藤の残酷さだけではない。
くじに仕掛けられた印と、自分が見逃した勝機だ。
勝負が決着した夜には兵藤の名前を尋ね、その名を忘れないと言う。

敗れたカイジの前で名を告げる兵藤
『賭博黙示録カイジ』/福本伸行・講談社

利根川との勝負に勝ってもカイジが帰らなかったのは、さらに金を欲しがったからではない。
彼は兵藤を倒したくて、新しい勝負を自分から始めた。
そして敗れた後には、兵藤への怒りに加え、勝てたかもしれない勝負を落とした悔しさが残る。
倒したい相手への挑戦が、今度は自分の敗北を取り返したい勝負にも変わっていく。

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