『銀と金』森田は大三元を和了していないのに、なぜ蔵前に勝てたのか

最後のツモと三兆円を超える役満祝儀を恐れる蔵前 銀と金
『銀と金』福本伸行・降りた後も続く蔵前の恐怖。

誠京麻雀の最後に、森田は大三元を和了していない。
それでも銀二たちは、現金五百億円と、総額二千五百億円に及ぶ代議士の借用書を蔵前から得る。
銀二が売ったのは、森田の捨て牌をチーしないという約束だった。

なぜ、牌を鳴かないだけで、蔵前はそこまで払うのか。
その理由は、残った「中」の所在を、銀二と蔵前が違うように捉えていたことにある。
森田の本気の殺意が蔵前を追い詰め、銀二はその恐怖を取引に変えている。

「中」は銀二の手の中にあった

森田が大三元を和了するには、最後の三元牌である「中」が必要だった。
ところが、森田が待っていた二枚の中は、銀二が持っている。
森田が山から中を引くことは、実際にはできなかった。

銀二は八筒の暗槓に見せかけて、その二枚を隠していた。
暗槓では、四枚のうち一部を裏向きに置く。
銀二は裏向きの二枚を中にすり替え、八筒を四枚持っているように見せたのだ。

八筒の暗槓に隠していた二枚の中を森田へ見せる銀二
『銀と金』福本伸行・銀二が隠していた「中」。

この仕掛けを知らない蔵前には、銀二の手に中がないように見える。
蔵前は中がまだ山に残っていると考え、森田が引くことと、自分が引いて捨てることの両方を恐れた。
森田の大三元が成立すれば、役満祝儀は三兆円を超える。
蔵前が守りたい誠京グループそのものが、失われかねない金額だった。

蔵前は「降り」ても危険から抜けられない

蔵前は一度、銀二が中を抱えているのではないかと考えている。
味方同士で牌を出し合っても役満祝儀は生じないため、銀二たちは祝儀を取れないまま、自分から場代だけを搾ろうとしているのではないか。
そう読んで、蔵前はこの局を降りる。

その後、銀二が手牌を見せると、蔵前には中が見当たらない。
蔵前は、場代をこれ以上取られずに済むと思って降りた後に、また大三元の危険を意識させられる。
しかも、誠京麻雀で降りた者は、引いた牌をそのまま捨てなければならない。
蔵前からすれば、中を引いたら森田へ放銃するしかない。

最後のツモと三兆円を超える役満祝儀を恐れる蔵前
『銀と金』福本伸行・降りた後も続く蔵前の恐怖。

蔵前は、二度ヅモも使えなくなっている。
もう一枚引いて捨てる牌を選ぶこともできず、引いた一枚を受け入れるしかない。
銀二は蔵前を降りさせたうえで、逃げられないと思わせる状況を作っていた。
詳しい制度のつながりは、誠京麻雀のルールでも整理している。

銀二がチーすると、蔵前のツモが戻ってくる

蔵前は、自分の最後のツモで中を引かずに済む。
森田も最後のツモで中を引けず、二索を捨てる。
残る最後の一枚を引くのは銀二であり、蔵前はもう自分の番が来ないと思っていた。

中を引けなかった森田と、安堵して笑う蔵前
『銀と金』福本伸行・森田の最後のツモ。

ここで銀二が、森田の二索をチーできることを示す。
チーすれば、銀二は山から牌を引かずに捨て牌を出す。
その次にツモるのは蔵前だ。
銀二が引くはずだった最後の一枚を、蔵前が引くことになる。

森田の二索をチーできる手牌を示す銀二
『銀と金』福本伸行・蔵前へツモを回せる銀二の手。

蔵前は、最後の一枚が中だった場合の放銃を恐れる。
蔵前は降りたことを取り消せず、銀二のチーによって、ようやく避けたと思った危険が戻ってくる。
銀二が握ったのは、蔵前にもう一度ツモをさせる権利だった。

そこで銀二は、チーをしないことを蔵前へ売る。
要求額は三千億円。
現金だけでは払えない蔵前に対し、銀二は現金五百億円と、代議士五十八人の借用書二千五百億円分で手を打つ。

チーの権利を買うよう蔵前へ持ちかける銀二
『銀と金』福本伸行・銀二が売ったチーの権利。

銀二は大三元の祝儀を請求したのではない。
蔵前が最後の牌を引かずに済むことへの対価を得て、勝負を終わらせた。
森田が和了していなくても勝てたのは、この取引が成立したからだ。

森田の本気が、銀二の嘘を支えた

ただし、この勝ち方を銀二一人の仕掛けだけで説明すると、森田の役割が分からなくなる。
森田は、銀二が中を隠していることを知らない。
森田は、蔵前を大三元で破滅させるつもりで勝負を続けていた。

蔵前が金額を上げて示談を持ちかけても、森田はツモろうとする。
銀二は、森田が欲しいのは金ではなく蔵前本人だと、蔵前へ告げる。
森田自身も「蔵前を殺る…!」と口にしている。

金額を上げる蔵前に、森田が求めているのは蔵前本人だと告げる銀二
『銀と金』福本伸行・蔵前を倒そうとする森田。

蔵前は、森田が十分な金を受け取れば引き下がる、という交渉をできなくなる。
森田は自分も負けかねないのにツモり、その後には銀二へチーを求める。
森田の恐れを捨てた態度を前に、蔵前は自分の破滅を避けるために銀二の要求を受け入れた。

森田まで中の所在を知っていたなら、蔵前を脅すために危険を装っていることになる。
実際の森田は、勝つ保証のないまま蔵前を倒そうとしている。
だからこそ、銀二が最後に中を見せたとき、森田もその仕掛けに驚く。
蔵前を追い詰めていた森田自身が、銀二の手の内を読み切れていなかったのだ。

銀二は、中を隠す嘘と、嘘を知らずに闘う森田の本気を、同じ勝負の中で使っている。
森田は和了まで勝負を続けようとし、蔵前は金を払ってでも勝負を終わらせようとする。
銀二はその違いを利用し、蔵前が最後の一枚を引く前に決着をつけた。

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