セザンヌの鑑識眼勝負で四億円を失った中条は、その後、川田から金を借りる。
川田は中条に、森田の考えた勝負へ乗りそうな客を連れてくる役目を与える。
中条は、金を奪われた側から、別の人間を勝負へ誘う側に回るのだ。
これだけなら、川田の助けで中条にも金を取り戻す道ができたように見える。
ところが川田の契約は、中条が勝負で得る分け前も、借金の利息で消えるように組まれている。
中条の苦境は、勝負にまた負けるかどうかより前に、この条件の中にある。

川田が貸す金には、次の客を連れてくる役目がつく
敗北後の中条は森田の部屋にも現れるが、森田から金を取り戻すことはできない。
中条が次に向かうのは、森田と組んで自分から金を奪った川田のもとだった。
そこで川田は、中条に金を貸す。

川田が欲しいのは、ただ利息を払う借り手だけではない。
中条には、同じ絵画勝負で金を奪える客を探して連れてくる役目もある。
川田は森田とのコンビを解消しても、森田が考えた仕掛けを使って稼ごうとしている。
その商売のために、川田は負けた中条を利用するのだ。
中条は、自分が引っかかった勝負を、今度は別の人間に持ちかける立場になる。
川田から借りる金は、この次の仕事に使う準備資金でもある。
新たな客を同じ勝負へ連れていく仕事と、貸し付けが一組になっている。
分け前があっても、利息で消えてしまう
中条にも、勝負で儲かった金の分け前は与えられる。
ただし、客を見つけ、準備をして勝負に持ち込むまでには時間がかかる。
その間も、中条が借りた金には利息がつく。
川田は、勝負までにたまる利息で、中条の分け前が消えるように見込んでいる。
中条が次の客を連れてきて金を稼いでも、中条の分け前は川田への利払いに回る。
働いて得た金が借金の元金を減らすところまで届かない契約なのだ。

川田は中条に、勝負で儲けを得る役目を与えながら、貸し手としてその儲けを受け取れる。
中条が他人から金を奪う仕事に加わったことは、中条自身が川田に金を払う立場から抜け出すことを意味しない。
分け前をもらえるという条件だけを見ると見えにくい、この二重の関係が中条を縛っている。
川田は、中条に刺される危険も引き受ける
川田から中条との契約を聞いた森田は、川田が刺される危険を警告する。
森田が指摘しているのは、金を貸した川田まで安全に稼ぎ続けられるとは限らないことだ。
川田はその危険を承知で、金の絡む仕事は命がけだと答える。
森田と川田は、稼いだ後の判断でも折り合わずに別れている。
その違いは、森田がセザンヌ勝負の反復を断った理由で詳しく扱っている。
川田は別れた後も同じ勝負を商売にし、そのための客探しを中条に引き受けさせる。
中条のその後は、単にもう一度騙されて金を失う話ではない。
川田は中条に儲けの機会を与え、その儲けを利息として回収しようとする。
金を取り戻すための働きが、川田に金を払い続ける働きになる。
森田に負けた中条が川田の手を借りても救われないのは、勝負の勝ち負けとは別に、利益の行き先まで川田に握られているからなのである。


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