九億円のポーカー勝負に敗れた西条進也は、森田鉄雄に何かを言いかける。
森田は、その言葉を口にさせない。
「命にかえても口に出しちゃいけないセリフ」がある、と西条に告げるのだ。
この場面では、西条が飲み込んだ言葉は明かされない。
それでも、森田が何を止めようとしていたかは、直前の言葉から考えられる。
森田が西条に求めたのは、負けたあとにも意地を捨てないことだった。

金を返してほしかったのか、もう一度勝負したかったのか
西条の言いかけた内容には、二つの可能性がある。
一つは、負けた金を返してほしいという懇願だ。
もう一つは、森田に再戦してほしいという要求である。
どちらも、九億円を失った直後の西条が、損を取り戻そうとする言葉として考えられる。
返金を頼むつもりだったと考えると、森田の「意地」という言葉につながりやすい。
西条は、それまで相手が払えない金を積み、自分に有利な勝負をしてきた。
その西条が、自分が負けたときだけ勝った森田の情けに頼るなら、勝負の結果を自分で引き受けられなくなる。
森田は、その頼みを口にする前に止めた、と読める。

再戦を求めるつもりだったという可能性も残る。
西条は初戦で森田に敗れたあと、資金を用意して再び森田へ挑んだ人物だ。
ただ、再戦を申し込むことだけでは、なぜ命にかえても言ってはいけないのかまで説明できない。
森田が止めた言葉を再戦要求と考えるなら、西条がどんな態度で頼もうとしていたかも問題になる。
原作はその言葉を言い切らせていないため、再戦か返金かを確定することはできない。
森田が問題にしたのは、九億円を失った後の西条
森田は、西条がこの一件で終わってしまうなら、その分かれ道は九億円の勝負に負けたときではなく、今この時かもしれないと話す。
負けた金額だけで、西条の先を決めつけてはいない。
森田は、敗北をどう受け止めるかを西条に問うている。
森田は、西条にはまだ十一億円の資金があると話し、その金を増やせばいいと告げる。
これは、西条が失った金を森田が戻してやるという申し出ではない。
西条自身に、次の勝負をする余地があると告げている。
森田の励ましは厳しい。
森田は勝った金を返さず、西条に立ち直ることを求める。
西条が森田の情けで損を消してもらうのか、自ら次の勝負に向かうのか。
返金を願う言葉だったと読むと、この違いが森田の制止の意味になる。
森田は西条と握手して去る
別れ際の森田は、西条を嫌いではないと告げ、握手して去る。
森田は西条の言葉を厳しく止めながらも、敗者となった西条をただ嘲笑して終わらせない。
西条が自分で再び立つことを期待する態度が残っている。
だから、森田の制止には、金を返すつもりがないという厳しさと、西条に意地を保ってほしいという励ましの両方を読むことができる。
森田が西条を気に入ったことと、西条の損を肩代わりすることは別なのだ。
森田は西条の残りの金を狙わず、その場を離れる。
その後、銀二は森田の引き際を高く評価する。
退場と警察の到着の関係は、銀二が認めた森田の才能でも扱っている。

森田にとって、西条は九億円を失っただけで終わる人物ではなかった。
だからこそ森田は、西条が敗北のあとに意地まで失うことを止めようとする。
返金を願う言葉だったと考えるなら、森田は西条の損を救わず、西条の誇りを守ろうとしたことになる。
金を返す優しさではなく、金を失ったあとにも立ち上がれと求める厳しさが、この別れにはある。


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