神威家との死闘で、森田鉄雄は拳銃を持つ兄弟たちを制圧する。
ところが、五男の吉住邦男との戦いでは、その森田が追い詰められる。
邦男の体格と打たれ強さは恐ろしい。
さらに森田自身は、死を覚悟しているのはどちらかという違いにも気づく。
先に次男の勝信と戦った森田は、自分は死を覚悟し、勝信は保身しか考えていないと告げた。
邦男を前にした森田は、今度は自分のほうが命を惜しんでいると考える。
同じ夜の二つの戦いを比べると、邦男の強さと、森田が押される場面の苦しさが分かる。
勝信に「涅槃」を突きつけた森田
森田が勝信と向き合ったとき、拳銃を持っているのは勝信だった。
森田は、撃たれる危険のある相手に踏み込み、カーペットを引いて足元を崩し、勝信を殴り倒す。
武器の差を覆すためには、森田自身が危険を引き受けて動く必要があった。

この戦いで森田が言う「涅槃を抱いてここにいる」は、死を覚悟して戦っているという言葉だ。
森田は、勝信が抱いているのは自分の保身だけだと告げる。
死ぬ危険を承知で攻める森田と、自分の身を守ることから離れられない勝信。
森田が指摘するのは、持っている武器とは別の差である。
邦男との戦いで、森田は自分の保身を自覚する

邦男が暴れ出すのは、兄の勝広を父の秀峰に殺された後だ。
神威家で虐げられてきた邦男にとって、勝広は心を開いてくれた兄だった。
邦男はその兄を失い、秀峰や上の兄たちだけでなく、止めようとする森田にも襲いかかる。
森田は、勝信との戦いの後、長男の勝輝に足を撃たれている。
邦男と向き合った時には、すでに負傷した状態だった。
邦男は、勝信に刃物で脇腹を刺されても攻撃をやめない。
勝信は逆に殴り倒される。
傷を負っても止まらない邦男の体と、自分の命を捨てても報復するという怒りが、森田に迫っている。

森田は、邦男が死を承知で攻めてくると考える。
森田自身は、命かわいさに戦っている。
森田は、その違いを認めているのだ。
先に勝信を倒した時、森田は命を賭けて攻める側だった。
邦男との戦いでは、森田は身を守るために戦い、邦男のほうが死を承知で攻めてくる。
勝信に突きつけた「保身」という言葉が、今度は森田自身に当てはまる。
勝信戦では森田を強く見せた対比が、邦男戦では森田の苦境を説明している。
邦男は森田を倒しても、その後、秀峰に殺されてしまう。
邦男の力は兄を失った怒りの中で発揮され、邦男自身を救うことにはつながらなかった。
森田が認める邦男の強さには、その強さを見せても助からないという悲しさがある。

コメント