有賀研二に襲われた組員たちは、逃げようとして殺される。
有賀に立ち向かった森田鉄雄も、最後には不意を突かれて瀕死の傷を負う。
逃げても、闘っても危ない。
それでも、二つの場面で有賀がつく隙は違っている。
有賀は、組員たちに逃げられると思わせる。
森田が危険は去ったと気を緩めると、有賀はそこへ戻ってくる。
有賀の怖さは、相手が抵抗しなくなる瞬間を逃さないことにある。
この違いを押さえると、森田の「弱い者しか殺せない」という言葉と、有賀の危険さがどう両立するのかが見えてくる。
逃げ道があるから、組員たちは闘わなくなる
有賀はもともと、組員たちに監視される立場だった。
ところが、見張りから武器を奪うと、残る組員たちを追う側に回る。
組員たちの関心は、有賀を押さえることから、自分が生きて逃げることへ変わってしまう。
有賀は出口へ向かう道を残し、組員たちがそこへ逃げるのを利用する。
組員たちは狭い出口付近に集まり、有賀に背を向けたまま撃たれる。
逃げ道が、かえって有賀にとって狙いやすい場所へ相手を集めることになる。

この場面には「希望によってネズミは死ぬ」という語りが重なる。
組員たちは、有賀を倒すよりも、出口へ走ることを選んでいる。
有賀はその希望を、相手が抵抗しなくなる仕掛けに使った。
出口が存在することと、そこまで無事にたどり着けることは違う。
有賀は逃げる相手を見逃さず、背後から撃つ。
組員たちが助かる道だと思ったものを、そのまま殺すために利用しているところに、この場面の恐ろしさがある。
森田が闘うと、有賀は停戦を持ちかける
森田は、逃げた組員たちと同じ行動を取らない。
有賀に反撃し、ナイフを一本奪うところまで持ち込む。
有賀だけが一方的に相手を襲える状況が、ここで崩れる。
森田は、有賀が殺してきた相手と、その殺し方を指摘する。
力の弱い者や逃げ腰の者を、不意打ちで殺してきた。
自分は逃げずに闘うと、森田は有賀に言う。
森田の言葉は、逃げる相手を襲ってきた有賀に、反撃を受ける闘いを迫るものだった。
有賀が停戦を持ちかけるのも、森田がただ逃げる相手ではなくなった後だ。
森田の反撃には、有賀の一方的な攻撃を止める働きがあった。
「弱者」は、さっきまで闘っていた森田にも向けられる
有賀が去ると、森田は玄関の鍵をかけ、洗面所で顔を洗う。
ところが、鏡に映る森田の背後には、戻ってきた有賀がいる。
森田がもう戦いは終わったと気を緩めたところを、有賀は襲った。
有賀は、弱い者しか殺せないという森田の指摘を否定しない。
その通りだと答え、森田へ「死ね……弱者……!」と刃物を振り下ろす。
さっきまで反撃していた森田も、不意を突かれた今は、有賀に一方的に攻撃される側になっている。

森田には、有賀に立ち向かう度胸も、反撃する力もあった。
その森田でさえ、闘う態勢を解いた後には致命的な傷を負う。
有賀の怖さを、臆病な人だけを殺すことだと捉えると、この襲撃を説明できない。
有賀は、逃げる組員にも、油断した森田にも、抵抗しにくくなったところを狙っている。
森田が一度反撃できたことは、その後の安全まで保証しなかった。
闘う力があっても、不意を突かれた瞬間には「弱者」と呼ばれ、一方的に刃物を振り下ろされる。
森田の反撃を見た後にも、有賀の恐ろしさが消えない理由はそこにある。


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