『銀と金』邦男の「差別されたんだ」は何を意味するのか――森田の言葉が消せなかった過去

神威家の五男で、勝広と行動する吉住邦男 銀と金
『銀と金』福本伸行・吉住邦男。

神威家の五男・吉住邦男は、秀峰に喉を撃たれた後、森田に「差別されたんだ」と告げる。
森田が、ほかのやり方があったはずだと語りかけても、邦男は同じ言葉を返す。

この会話では、森田はこんな死に方をせずに済んだはずだと語り、邦男は自分が受けてきた扱いを訴えている。
二人が見ているものの違いを、邦男の境遇と、兄の勝広を失った直後という状況から読んでいきたい。

神威家の五男で、勝広と行動する吉住邦男
『銀と金』福本伸行・吉住邦男。

邦男の差別は、家の中で生き方を奪われることだった

神威家の家長で、カムイ会長の神威秀峰
『銀と金』福本伸行・神威秀峰。

秀峰の上の三人の息子は、政治家や会社の社長になっている。
邦男は、同じ秀峰の息子でありながら、学校にも通わせてもらえず、家で下男として扱われてきた。
森田が神威家を訪れた際にも、邦男は使用人から顔を蹴られる。

邦男が「差別」と呼ぶのは、家族として育てられず、学ぶ機会も与えられず、人に踏みつけられる生活そのものだ。
邦男は、その扱いを受けてきた人間として、森田に自分の過去を伝えている。

邦男に心を開いてくれたのは、同じく虐げられた四男の勝広だった。
その兄も、邦男の目の前で秀峰に殺される。
邦男が復讐に失敗した夜は、自分の味方だった兄まで失った夜でもある。

森田は復讐のやり方を問い、邦男は受けた扱いを語る

森田は、邦男を救いたいと考えていた。
邦男が秀峰を絞め殺そうとするのを止めようとし、その隙に邦男は秀峰の銃撃を受ける。
森田は瀕死の邦男に、なぜこんなやり方を選んだのか、ほかの道があったはずだと語りかける。

森田は、秀峰を殺すために邦男まで死ぬ必要はなかったと考える。
助けたかった邦男が死んでしまうことに、森田は耐えられない。

瀕死の邦男の手を握る森田と、差別されたんだという邦男の言葉
『銀と金』福本伸行・神威編の邦男と森田。

邦男は「差別されたんだ」と繰り返す。
もっとよい方法があったという説明では、邦男がそれまで受けてきた虐待は消えない。
森田が別のやり方を説いても、邦男の返答は、復讐へ向かわせた過去に戻る。

森田は邦男の命を惜しみ、邦男は、自分がどんな人生を送らされてきたかを最後まで訴えている。
森田が邦男に同情していても、二人の話は最後までかみ合わない。
互いの言葉のずれが、この短い会話を痛ましいものにしている。

この記事もおすすめ

コメント

アクセス解析について
タイトルとURLをコピーしました